予感

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ハラリと、サイン帳から落ちた一通の手紙。 “渡辺(わたなべ)優子(ゆうこ)様” 少し癖のある筆跡で書かれた私の名前。 25才になる少し前に、親友の神谷(かみや)浩美(ひろみ)から届いたもの。 “誠君とお付き合いすることを、許して欲しい” 許すも何も、その頃はもう誠と私は付き合ってなかった。 でも、わざわざそういうことを報告してくるところが、浩美(ひろみ)らしい。 _____そういえば、誠と浩美はどうしてるんだろう? 高校を卒業して、私と誠は隣県の企業にそれぞれ就職した。 同じ会社ではなかったけど、電車一本で会える距離だった。 せっせと働いて、貯金に励んで早く結婚したいね!といつも話していた。 この気持ちはずっと続くと、卒業してすぐの頃までは思っていた。 けれど、少し離れて違う環境にいると、気持ちは変わってしまう。 “二十歳になったら…” そう、二十歳になって、それぞれが見ている未来の姿がズレていることに気づいた。 そして多分、私の親友の浩美はずっと誠のことが好きだった…私はそのことに気づかないふりで、誠と付き合っていた。 ◇◇◇ 高校生の頃、誠は美術部でたくさんの油絵を描いていて、たまに受賞もしていた。 付き合ったきっかけは、ある日突然私のクラスにやってきて、彫塑のモデルになって欲しいと言ってきたから。 「裸婦像じゃないでしょうね!」 「高校生でそれはハードル高いって!首から上だから」 「美人にしてくれるならいいよ」 「デフォルメしちゃったらごめん!」 「なに?それは」 「強調して表現するってことかな?」 話に入ってきたのは、同じクラスになって一気に仲良くなった浩美だった。 浩美はバスケ部と美術部の掛け持ちをしていて、水曜日だけ美術部にやってくる。 「強調?美人になるならそれでもいいけど」 「いや、冗談だよ、普通に作らせて」 「普通が酷かったら怒るからね」 「真面目にやるよ、秋の県の文化祭に出すつもりだから」 「私も何か出品しようかなぁ?ね、誠君、どう思う?」 浩美と誠は、美術部同士ということもあって話も合うし、いつもなにかしらで(じゃ)れあっていた。 兄と妹?そんな感じ。
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