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「アイツは、どうしても画家になりたいって言ってさ。ブラジルにいる日本人画家に弟子入りするって言ってた。夢を叶えるためにって仕事も人の倍はやってたな」
「そうなんだ、誠らしいね」
「そうだね、アイツは思い込むと一途なとこあるし。浩美が帰ってきたのは誠の少し後だったかな?」
「心を病んでしまったと、手紙には書いてあったよ」
「そうだった、あのきゃぴってた浩美がね、生気がなくて表情がなくなってた。その少しあとにクラス会があったんだよ、地元に残ってる人間だけの小さなやつね。その時に浩美と誠は再会した。最初は浩美に寄り添うようにしてた、励ますというか見守るというか。兄と妹みたいだなって思ったよ」
「あ、私もそう思ったことある。あの2人にはそんな親密さがあったよね?昔から」
「昔?高校生の時から?」
「うん、仲良かったんだよ、でも男女としての感じじゃなくて、兄妹みたいな」
「そういえばそうだったかもな。とにかく、仕事がない時はずっと浩美の家に行って
浩美と過ごしていたみたいだよ」
浩美の家は、赤いとんがり屋根と白い壁、花壇にはいつも花が咲いていて、童話の世界みたいだと思った記憶がある。
_____そうか、あの家に誠は行ってたんだ
誠は、誠実だった。
誠は、優しかった。
誠は、正直だった。
誠は…。
でも、そんな誠のことを物足りないと感じたのは私。
私があっちで楽しくやってる頃、誠と浩美はどんなふうに過ごしていたのだろう?
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