寒空

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「ごめん。ちょっと葉山に呼ばれてた」 「……それは、お疲れ様」 杉本は返ってきた三浦の言葉にどこか腑に落ちたように頷いた。なんだかんだで三浦のことを気に入っている葉山が、昨日のことで彼に声をかけないはずがない。 無駄に長たらしい彼の進路指導を受けるのはさぞ退屈だったことだろう。 「……暖房切れてたから、手が冷えた」 しかし三浦は杉本の心配をよそに顔色一つ変えずいつもの表情乏しい顔のまま、細く伸びた自分の指先を眺めている。 呑気というか、肝が座っているというか。三浦康平という男はやはりどこか少し風変わりで、猫のような不思議な奴だと杉本は思った。 「なら、暖めておいで。ストーブ付いてるから」 しきりに赤くなった指先を気にしている三浦を見兼ねた杉本はストーブを指さし、彼に指先を暖めるように促した。 この季節、体を冷やしたままではすぐに体調を崩してしまう。これで三浦が風邪でも引いて再び学校を休むことにでもなれば、きっとまた葉山が騒ぎ始める。 職員室で彼の相手をするのも楽ではないのだ。特に生徒に関わることになるとより一段と面倒になるのがあの男の(さが)なのだから。 「ああ……やっぱり降ってきた」 曇るガラスの窓の外に見える灰色の空から、何か細かく白いものがチラチラと落ちてくるのが見える。 降り注ぐ粉雪。そろそろだと思ってはいたがまさか本当に降り始めるとは……やはり天気予報も大してあてになりやしない。 雨が降ると言うから傘を持ってくれば空はいつまでたっても晴れ渡っているし、晴れると言うから洗濯をすればその日はいつになってもどんよりとした雨模様。 予想することが極めて困難なギャンブルみたいな世界の中、人々はこうして今日を生きているのだ。
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