頼ること

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頼ること

「な、何すんだよ……!」 三浦は触れられた首元に手をやりながら、反射的に杉本から距離を取る。それだけ驚いたという事だろう。そんな彼の可愛らし反応を見ていた杉本は口の端をつり上げると、面白そうに目を細めた。 杉本からしたらこの行動は、昨日の生意気な一言に対する仕返しのようなものだった。それでも三浦の辛気臭い顔を見ていたら、いてもたってもいられなくなったのだ。 全てを諦めているかのような色の無い瞳のまま届かない粉雪へと手を伸ばした彼の姿は、なぜだか不思議と数年前の自分の姿と重なって見えた。 「……ある人が言っていたんだ。自分を絶望から救い出してくれるのは、神様じゃなくて人なんだってね」 絶望に苛まれていた毎日の中から自分を救い出してくれたその人は最後にまた新しい絶望を置いていったが、恨めしいと思ったことは無い。ただ少しだけ欲を言えば、もっと長く自分と一緒にいて欲しかったと杉本は思う。 きっともっと早くにあの人が迎えに来てくれていたのなら、態々自分を偽善臭い真っ白なペンキで塗りたくらずに済んだのかもしれないし、今こうして自分を必死に取り繕って生きていくことも無かったのかもしれない。 ……だから救いたいと思った。今度は自分が、あの人と同じように。できるだけ早く、目の前で絶望に震える未熟な雛鳥のような彼のことを。 「そんなの綺麗事だと思うかもしれないけれど、案外他人を頼ってみるのも一つの術だと僕は思うけれどね」 杉本は三浦の隣にしゃがみ込むと、彼の口元に出来たカサブタに触れるように自分の手を三浦の頬を寄せる。 「これ、何をした時に出来たの?一昨日は無かったよね」 「これは……帰り道で、転んだ時に」 「ああ……嘘つき、だっけ。この間の言葉、そのまま君に返してあげるよ」
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