頼ること

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「あれ……やっぱ聞こえてたの」 「ごめんね、地獄耳で」 少しカサカサしている傷痕に触れながら、杉本は皮肉たっぷりの笑顔を三浦へと向けてやる。 三浦はそれに対し、まるで狐にでも化かされたような面食らった表情で杉本の顔を眺めていたが、そのうちしらばっくれることに飽きたのか下を俯くとゆっくりと閉ざしていた口で語り始めた。 「……俺の家、親の仲が悪くてさ。もうずっと喧嘩ばかりしてて、俺じゃあどうすることも出来ないんだ」 「……その傷はそれで?」 「いや……これは母さんのこと庇った時にやった」 段々と三浦の背が丸まっていくことに気が付いた杉本は、彼が今どれほどの重りをその心の内側に抱えているのかを何となく悟った。 彼の猫のように背中を丸める癖は、自身に付きまとう孤独という喪失感から目を背けるための物だったのだ。 子供という生き物は親からの愛情を一身に受けて育つと聞くが、それがある時プツリと無くなってしまったならきっと、塞ぎ込むしか道は無い。 相手にされない、寂しい、悲しい。そんな苦く苦しい感情を胸の奥にしまいながら。 「俺はただ、自分の事を見て欲しかった……必要として欲しかっただけなんだよっ」 三浦の目からポタポタと、大粒の涙が零れた。堰き止めていた本音を一気に語り出したためか、感情の許容量を超えてしまったのだろう。 杉本は彼の丸まった背中を優しく撫でながら、部屋の隅で今の三浦と同じように小さくなっていた頃の自分を思い出す。 あの時、自分を薄暗い部屋の中から救い出してくれた彼は優しく手を差し伸べながらこう言ったんだ。 「……よく頑張ったね」 この短く簡潔な言葉に、どれだけ報われた気持ちになっただろうか。 杉本は泣きじゃくる三浦の肩を抱きながら、大切な思い出に浸るように目を閉じた。
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