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「そう言えばこれ、読んだよ」
例の本を片手に言った三浦の顔を、杉本は不満そうに見つめている。彼からすれば、先程不自然に会話を切られたことが気に食わなかったのだろう。
しかし、そんなつまらない事で大の大人が拗ねていても、正直気持ち悪い。
「……で、つまらなかった?」
「いや……普通、かな」
「はは、そうかい」
杉本は三浦の素直な答えに呆れたように笑うと、彼の手に握られていた本を奪い取る。
いつものようにパラパラとめくってみるが、やっぱりそこには何の変哲もない物語が綴っているだけだ。
もちろんお気に入りではあるが、物語としては在り来りな構成だと杉本はしみじみ思う。
これのどこに、こんなにも執着するほど心を惹かれたのか。
そんなこと、杉本自身が一番よく分かっている。
だからこそ、三浦の素直な一言を受け入れることが出来たのかもしれない。
「二人の男が星を探す物語……何かの童話集にでも入っていそうなほど、ありがちな展開だよね、この本」
「……確かに」
たまたま書店でみつけたからだとか、図書室に置いてあったからだとか。
そんな理由でこの本を手に取っていたならばきっと、この程度かという感想で終わっていただろう。
「まあ、僕からすればそこに魅力を感じたのかもしれないけどね……」
知るきっかけをくれた人が、大好きだったから。
幼い頃の杉本は、ひねくれ者ながら意外にも単純な思考を持っていた可愛らしい少年だった。
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