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放課後の日課
「またその本読んでるの?先生」
鮮やかな夕日によって美しい橙色へと染め上げられた放課後の図書室。
静けさに満ちた中、一人本棚の前に立ちながらお気に入りの本を黙読していた社会科教師の杉本慎は、突然横からひょこりと現れた黒髪の青年の姿を見ると驚くように肩を揺らした。
「これ、そんなに面白い?」
今時の学生らしい背格好の青年はぶっきらぼうに呟くと、杉本の手元にあった分厚い本を奪い取る。
この自由奔放さと言ったら、まるで公園に住み着いた野良猫にも等しいと杉本は思う。
「君も本当に飽きないね。三浦くんこそ、僕の邪魔をするのがそんなに面白いのかい?」
三浦康平。彼は杉本が副担任をしている2年3組の生徒で、普段から大勢と騒ぐような喧しいタイプの人間ではない。
人見知りなのか自ら不特定多数の人間と関わりを持とうとはせず、いつも自分の席で机に突っ伏しているか、授業をサボって保健室で寝ているかのどちらかがほとんど。
おまけに、目に刺さりそうなほど伸びた前髪はクラスの生徒との隔たりをより一層深めていた。
そんな三浦に最近、杉本はなぜだか異様に懐かれてしまっている。
「いや、別に。面白いとか思ったことないけど」
杉本の問いに顔色一つ変えず答えた三浦。
それを聞いた杉本はなら邪魔するなよと終始笑顔のまま心の中で悪態をついたのだが、どうやら先程の三浦の言葉にはまだ続きがあったらしい。
「……ほら、犬構う時には一々そんなこと考えないじゃん」
……つまり、彼の中での自分の存在は犬と同等だと言うことになる。
この時、三浦は杉本の笑顔がほんの一瞬だけ引きつったことを見逃さなかった。
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