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「ねえ、今ウザイって思ったでしょ」
三浦は微笑む杉本に向けて悪戯っぽくそう言った。
こちらをじっと見据えている、全てを見透かすような目。杉本はそういう目が大嫌いだ。
……この世の中は生きづらい。幼い頃に両親を事故で亡くし、それから親戚の家をタライ回しにされてきた杉本は誰にでも好かれる人を演じるためにいつしか自分の顔に笑顔という仮面を貼り付けるようになった。
しかし、たまに居るのだ。こうやって、その仮面を剥がそうとしてくるタチの悪い人間が。
「そんなこと思ってないよ。ただ少し、生意気だなと感じただけさ」
杉本はバレないように再び仮面を貼り直すが、正直彼の前でいくら取り繕ったところでなんの意味もないだろう。
なぜなら彼はとっくにこちらの本性を見抜いているのだから。
「……嘘つき」
静かな図書室に響いた三浦の呟きに聞こえないふりをした杉本は、彼の腕の中におさまっている本へと手を伸ばした。
しかし、どうやら無視したことで火に油を注いでしまったらしく、三浦は杉本が自分の方へと伸ばした腕を掴み返すと前髪から覗かせた黒色の瞳で杉村のことを睨みつける。
「何。急にどうしたの?気分悪くさせたなら謝るよ」
「やっぱり俺、アンタみたいな奴が一番嫌いだわ」
「……は?」
気持ち悪い程の静寂に溶け込む、素っ頓狂な声。
呆気に取られる杉村をよそに、三浦はそれだけ言い残すと掴んでいた杉本の手を振り離しそのまま図書室を後にしてしまう。
遠くなる背に向けて杉本が手を伸ばしても、時すでに遅し。
もちろん、その腕の中にはあの本が握られたままだった。
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