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粉雪
肩につくくらいまで伸びた色素の薄い茶髪を邪魔くさそうに纏めながら、杉本は自分のデスクから一番近くに見える時計を確認する。
時刻は16時を過ぎた。放課後本を返すと言っていた三浦は、もう図書室に居るのだろうか。
職員室の窓から見える外の景色は薄暗く、灰色の空からはチラチラと粉雪でも降ってきそうなほどだ。霜月を過ぎたためか、この辺りにも冬が目前にまで迫っている。寒さが苦手な杉本はスーツの下にカーディガンとワイシャツ、それから薄手のヒートテックを着込んでいるがそれでも芯から冷えるような冬の寒さには到底勝てそうもない。昨日一昨日は気温もそれほど下がっておらず、天気も良かったため油断した。
幸い、職員室には暖房が付いている。そのため杉本が身を震わせながら凍えることはないのだが、廊下や普段使わない教室なんてそれこそ地獄だ。もちろん学習室があるため利用客の少ない図書室も然り。しかし、約束したからには嫌でも行かなければならない。
「……あ、杉本先生。コーヒー飲みませんか?少し淹れすぎてしまって」
寒さのおかげで重い腰をゆっくりと上げた杉本。それを見ていたのだろう一人の女性が、杉本に声をかけた。
彼女は杉本より三つほど若い国語担当の教師で、専攻は確か古文だと言っていたはずだ。はなからあまり他人に興味の無い杉本にとっては至極どうでもいいことなのだが、生きているうちはどれだけ面倒でもそれなりに人付き合いをしなければならない。
杉本は気前よくにっこりと微笑むと、自分のデスクの上に置いてあったマグカップを指さして言う。
「今から少し席を外すので、戻って来てからいただきます」
「分かりました。じゃあ、入れておきますね。」
「よろしくお願いします」
用を済ませてまたここに戻ってくる頃にはきっとコーヒーなんて冷めきってしまっているだろうが、変なこだわりを持たない杉本には関係ない事だった。
杉本はそのまま軽い会釈を済ませると、ひんやりとした空気漂う廊下へと肩を抱えながら歩いて行った。
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