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蛍明 hotaru akari
静かに川を見ていた。
緩やかな小川の流れが石を撫で、森の闇に消えていく。
川の音が静かに、体を包む。
僕は生茂る木々の影から、葉の影に隠れ
そっと、そっと、
静かに沈む心で、
水面に映る、仲間の光を見ていた。
滲む光が、揺らめいては消える。
月のない暗い夜に、優雅にふわりと舞う、その光を、仲間の蛍の姿を。
羨む心で、直視できぬその姿を、水面に写し、静かに見ていた。
何の因果か、光れぬ僕。光れぬ蛍の僕。
そんな僕を待っていたもの。それは…………
始めは分からず、夢を見ていた。
一つの星となり、皆と一緒に輝く夢を見ていた。
光輝き舞って、飛び回る夢を。
蛹になり、光らぬ自分に気づいた時。
「大丈夫、大丈夫」と優しい声が聞こえて安心した。
優しく包んでくれる、優しく暖かい声だった。
だけど、成虫になっても光らなかった。
光ろうと思って頑張ったんだ。
お腹に力を込めたんだ。
だけど、
……ダメなんだ。
闇雲に飛び回り、体を振り回した。
何故だ? 悔しくて怒った。
どうして? 失望して怒った。
笑われたら、怒って暴れたりもした。
全てが嫌になる、自分が嫌になる、
それでも、頑張って。頑張って、頑張って……
でも、ダメだったんだ。
……そして、
……僕は。
…………諦めた。
何も考えられなかった、
僕を待っているこれからのことは。
何も考えられずに、
川面を、ただただ見つめていた。
諦めのそこに広がる、
綺麗な皆の光が、
滲んで霞む。
やがて、
木々を撫でる風が、僕を乗せた葉を揺らした。
気がつくと、僕は風の音に合わせて、静かに歌を歌っていた。
川の音に合わせて、揺れる木の葉に合わせて、諦めた夢の光に合わせて。
静かに歌を、歌っていた。
諦めたのに、諦めきれず。
悲しみの底から手を伸ばし続ける、僕の歌を、
空っぽの心でずっと歌っていた。
ふと、
甘い水草の匂いがした。
下を見ると、
1匹の小さな蛍が輝きながら飛び立とうとしている。
だけどヘタッピで、飛ぼうとしては転け、飛ぼうとしては転け、そして、
また、ヨタヨタヨタヨタと、歩いては転んだ。
だけど、諦めず。
…… あ、また転んだ。
そして、彼女はプンプン怒っていた。
その、格好が可愛くて
「フフッ」と思わず笑ってしまった。
彼女がこちらに気付いてキッと睨む。
「あ、ご、ごめん」
彼女は、フンッと顔を背けると、
溜息ををついて、肩を落とししヨタヨタと葉の影に歩いて行った。
「待って! そんなつもりじゃ……」
僕は慌てて彼女の後を追いかけた。
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