あの日の僕らを照らす朝

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 オレンジと黒に染まった世界。  形を失ったそこに鈍い音が響き渡る。  少し遅れて衝撃が掌に走った。  全身が今にも飛ばされてしまうくらいに軽くなる。  急速に形を取り戻した世界で真っ先に目に映ったもの。  それは伸びきった自分の腕だった。  空は快晴で、新入生を祝福するかのように桜は舞い散っている。  そんな晴れ晴れとした空気に反して明の胸中には新生活への期待と呼べるようなものは何一つなかった。  校舎に入ろうとしている途中で写真を撮っている集団が目に入る。まだ入学式すら始まっていないこの段階で写真を撮っているということはきっと同じ中学なのだろう。  明と写真を撮る相手はいない。  この学校に進学したのが明しかいないし、例え他にいたとしても一緒に写真を撮ることなどまずないからだ。  思い出してしまった嫌な現実を振り払うかのように明は歩く速度を上げる。  教室の空気は沈黙に満ちていた。明以外の新入生はいるが、ほとんど全員スマホをいじっている。  今ここにいる全員が初対面であると確信し、1人なのは自分だけじゃないことに僅かながら安堵した。  それが束の間の安心だとしても。
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