あの日の僕らを照らす朝

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 果たしてこの言葉は何人に届くのか。 「よろしくお願いします」  これ以上持つ気がしなかったから締めくくってさっさと終わらせる。  当たり障りのない自己紹介としてはこれで充分だろう。  座ると急速に体から力が抜けたが、もうこれで視線に晒されることがないかと思うと脱力感さえ心地いい。  しばらく続いた自分と大差ない自己紹介を明は聞き流していたが、その流れはある生徒の番になって変わった。 「えーっと、糸朝陽(ともはる)っていいます。よく『あさひ』って言われますけれど『ともはる』って読むんで!」  明の席に間違って座っていた奴だった。  今までのクラスメイトが静かに簡潔な自己紹介をしていた中、朝陽は快活な笑顔を浮かべて元気よく自己紹介をしている。 「部活とかは特に何やるか決めてないけど、どこでも楽しめたらいいなって思います!」  よく最初から物おじせずに喋れるものだ。あらかじめ考えていたというより、ただ喋りたいことを喋っているように見える。  だから何を話せばいいかという迷いがないのだろう。 「後映画とか見たりするの好きです。よろしくお願いします!」
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