魔王様の決戦前夜

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「やだああああやだやだやだ戦いたくないいいいいい」  癇癪を起こした赤ん坊のように手足をじたばたさせて、魔王様は一人駄々をこねます。  魔王様だって本当は、父親である先代様の期待に応えたい気持ちが、全く無いわけではありません。魔王の血筋に生まれた以上、そうしなくてはいけない、というのは、子供の頃から周囲の話すこと、接し方から、察していました。  でも、でもです。  実は魔王様は、人間の若者に扮して人間世界にこっそり遊びに行った時、なんと恋をしてしまったのです。  サルガトナス達家臣らがあてがってくる、お色気に満ちた魔族の女性にはない、清楚で可憐な、それこそ世界に一つだけの花のような愛らしい乙女。  とある村の祭りで共に踊った魔王様は、すっかり心奪われてしまいました。  彼女が、勇者一行の一員である、癒し手(ヒーラー)であると知ったのは、魔界に帰って、部下が勇者達の情報を持ってきた時でした。  彼女の為にも、人間世界を滅ぼしたくない。  どうすればいいのかわからないまま、決戦前夜までずるずると悩んでしまいました。決断が遅いのは、魔王様の悪い癖です。  勇者はもうそこまで迫っています。家臣達は魔王様の命令を待っています。  魔王様は目を閉じ、しばらくぐるぐる考えて。  そして、金色の目を決意に開きました。
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