呪い殺され前夜

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 ふと、離れたところで白い肌をした赤ん坊が転がっているのを見た。しかし奴は俺を見ることなく、部屋の隅一点を静かにじっと見つめている。次の瞬間、赤ん坊の視線の先に、ぼうっと白い光が現われた。光は次第に収束し始め、狐のかたちになった。幾本もある尾の先端に赤い火が灯っている。  狐に呼応するかのように、人の顔をした牛や巨大な蜘蛛やらの魑魅魍魎たちがぼうっと現われ始め、部屋が窮屈になっていった。そして女が狐の首を絞め始めると、堰を切ったかのように怪異たちが動き始めた。  部屋の隅では人面牛と白い赤ん坊が戦い、箪笥の上では女が狐の首を絞めている。俺の後ろでは蜘蛛が白いもやのようなものに糸を吹きかけていた。俺の予想は正しかったらしい。怪異たちはそれぞれ俺が捏造した呪いの対象を攻撃し、そして反撃されるを繰り返していた。まさか成功するなんて。怪異のバトルロワイヤルなんて聞いたことがない。  初めに敗北したのは巨大な蜘蛛だった。奴の攻撃が白いもやのような怨霊を貫通し、その後ろにいた白い赤ん坊に当たったせいで、赤ん坊から反撃を貰ってしまったのだ。赤ん坊は見かけによらず、アグレッシブな戦い方をしていた。顎が外れてしまうのではないかと心配になるほど大きく口を開き、そしてレースカーに引けを取らないスタートダッシュののち、蜘蛛にかみつくのだった。  人面牛がその巻き沿いを食らって倒れ、狐は女に首を絞め殺された。いや、奴らに死というものがあるのかはわからないが、地面に倒れて動かなくなったところを見ると、やはり死という表現が合っているように思う。有象無象の大乱闘が始まって二時間が経過したころ、三体の怨霊が残った。
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