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牢の中から
土を堀り、石を積み上げた牢の気温は一年中変わらない。ジメジメとして暗いので快適とは言い難いが、夏の殺人的な日差しを受けなくていいというのは囚人と看守の特権だろうか。
男はそんな馬鹿な事ばかりを考えて時間を潰していた。ここでやる事など何一つ無い。収監後すぐは時折尋問が行われていたが、もう聞きたい事は無いらしい。いつからか、男に会いに来る者はいなくなった。ここにいるのは囚人と交代で彼らを見張っている看守ーそれと勝手に入り込んでくるネズミや虫達くらいだ。
その日、男に久々の来客があった。幼馴染ー数度会っただけなのだが、男は友人だと思っているーだ。最初に出会ったのは六つの頃。最後に会ったのはここに投獄させる直前。
だから友人が現れても、男は懐かしさを感じなかった。
「…久しぶりだな」
「久しぶり?俺が投獄されてからそんなに経ったのか」
生憎とここから太陽を拝む事は叶わない。故に一日もまともに感じられない。ーそう男は軽口を叩く。叩かなければならない、と思っていた。その胸中に巣食う感情を、この男に知られてはならないと。
実際、彼が投獄されてから一月程度だ。数年会わないなどザラだった関係なので、その程度で久しぶりだという感覚は無い。果たして、友人が言った「久しぶり」をどのように受け取ればいいのかー。結論を出せずにいたのも事実ではあるが。
気がかりは幾つかあるが、この場において最も重要そうな事柄は「何故、彼がここにやって来たか」であろう。
「気分はどうだ?」
「おお。こんな所にぶち込まれてご機嫌ってのも如何かな、って思うよな」
詰まる所、そう良くは無い。
牢の中の男の返事を聞いて、牢の前に立つ男の顔が陰る。元々俯いているのだが、牢の中の男には更に影が濃くなったように見えた。
「気にするな。運が悪かっただけだよ」
牢の前に立つ男の目が一瞬見開かれ、また伏せられた。友人を傷つける意図は男に無かったのだが、どうやら相手はそう受け取らなかったようだ。
「昔、俺が言ったセリフだな」
「ああ、同じだ。お前も俺も、運が無かった」
貧民に生まれた友人と王族に生まれた自分。何方も運が無かったと、男は本当にそう考えていたのだ。彼はいつ寒さや飢えで死ぬか分からない生活を強いられ、自分はクーデターで牢に入れられたのだから。
「きつと、決まっていたのさ」
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