* 星奈 scene Ⅰ *

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『ごめん。今の俺には、星奈(せいな)のことが理解できないんだ』  淋しく響いた(そら)の言葉が、頭の中で木霊している。  この部屋に宙が帰ってこなくなったのは、長い夏の終わり頃だった。  幼い頃に両親が離婚し母に引き取られた私は、その再婚相手から虐待を受けて育った。  子どもの私は虐待されている事実にも気づかず、殴られない為に唯一覚えたのが、口をつぐむという方法だった。何を言われても黙って耐えていれば、やがて男は飽きて殴るのをやめた。  しかし徐々にエスカレートする暴行は、中学生に上がった頃についに一線を越えた。私が声を失くしたのは、その夜からだった。  声の出せない私に愛想を尽かせた、というわけではない。私が彼に余計な負担になるような疑いをかけたことが原因だった。  全て私のせいだ。
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