1人が本棚に入れています
本棚に追加
0-1
「クジ、おいで」
私は、読んでいた絵本を床に置いて、父親に近づいた。
「なぁに?」
「後ろを向いてごらん」
「?」
私は父に背中を向けた。すると、父は私の首に何かをかけた。
「これなに?」
「お土産」父は微笑む。「結構高かった」
「くれるの?」
「ああ」
「おお……」
首にかけられたのは、ネックレスだった。
手に取り眺めると、細いチェーンの先に、小指の爪ほどの大きさの宝石がついていた。綺麗なオレンジ色である。
私は、思わず微笑んでしまった。
嬉しかった。
ネックレスそのものより、普段あまり会えない父からのプレゼントであることに、私は価値を感じた。
「ありがとう、お父さん」
「うん」
「ねぇ、次はいつ帰ってくるの?」私が尋ねる。
「うーん、どうだろう。まぁ、一か月後ぐらいかなぁ」
「そっか」
父は私の頭を撫でると、体を引き寄せ、私を抱きしめた。
「お父さん?」
「私はお前を愛している。どれだけ離れていても、どれだけ時間が経っても、それは変わらない。絶対に……」
「はぁ」
父は私を解放すると、再び頭を撫で、優しく微笑んだ。
私は父が大好きだった。
尊敬していた。
憧れていた。
だから……、この一か月後、父が亡くなったと母に知らされたとき、私はその話を受け入れることができなかった。
最初のコメントを投稿しよう!