パーティー前騒事

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◆◇◆  シュトライザー別宅に帰ってくると、朝からいなかったハムレットとチェルルがお茶をしていた。こちらへと一瞥し、ふっと息を吐く。一仕事終えた感じた。 「何か掴めた? 兄上」 「まぁ、材料は揃ったかな。でもその前に食べよう。お腹空いた」 「今日は私が作りました。皆様のお口に合えばいいのですが」  アリアナがにっこりと微笑んで伝え、まずは食事となる。ランバートの隣にはファウストが、ハムレットの隣にはチェルルが、お誕生日席には上機嫌のシルヴィアが座る。 「あら、シチューね!」 「よく劇場で作っていたので、自信あります」 「ふふ。あら、人参がお花ね! 可愛いわ」 「有り難うございます」  嬉しそうに微笑むアリアナにシルヴィアも微笑む。なんとも温かく過ぎる食事の場面だが、交わされる会話は流石だった。 「母上の方はどうだったの? 上手くいきそう?」 「とても可愛い子だったわよ。商売気がないのが難点だけれど、優しくて丁寧で礼儀正しいわ。そうね……追い詰められた野ねずみみたい?」 「ぷっ!」  聞いていたアリアナが可笑しそうに背を向けて拭きだしている。そしてランバートもそう言われるのは分かる気がした。 「大丈夫なの、それ? 提携じゃなくて買い取れば?」 「あら、ダメよ! あそこはあのオーナーだからついていくの。あの子がそこの従業員と長く寄り添って一緒に歩んできたからこそ、丁寧でいい物ができるのよ。これで私があそこを買い取ったって、いい物なんてできない。人の絆は一朝一夕では無理なのよ」  シルヴィアのその言いように、アリアナはどこか嬉しそうに微笑んだ。  程なくして食事が終わり談話室。既にこの部屋は悪い事を話し合う拠点状態だ。 「この町の裏を使って調べた。ダーニアは表と裏にカジノを持っている。表はあくまで良心的な社交の場。だけど裏カジノは負ければ身ぐるみ剥がされる。しかもイカサマまでしてるらしい」 「資金源か」  ファウストが唸ると、ハムレットも素直に頷いた。 「ただ、違法とはいえこの町の有力者。役所もこいつからの支援を受けているし、大々的に違法だと摘発はできていない。カジノで負けた男から家も家財道具も全部取り上げたって話も聞くのにね」 「いつの世も弱い人間は声をあげられない。そういうものだよ」  悔しいがこれが現実だ。そこに一石を投じるのだ、今。 「実力が伴わないのに名声を欲し、見栄を張り、権威を求め欲望と金に弱い。見た目だけ着飾っても所詮は見た目だけ。綻べば剥がれ落ちるわ。ハムレット、どれくらいむしればいいかしら?」 「ざっと千フェリスくらいかな」 「千!」  金額の多さにファウストは僅かに目を見開き、アリアナは卒倒しそうだった。だがランバートもハムレットも、シルヴィアも平然としている。やがてその口の端に小さな笑みが浮かんだ。 「はした金ね」 「はした金だ」 「はした金さ」  三つの声が重なる。暗く鋭い笑みを浮かべる三人は互いを見て更に深めていく。 「裏カジノがいいわね。私が乗り込もうかしら?」 「止めてくれ母上、バレたら俺達が父上に怒られる」 「ほんとだよ、勘弁して」 「俺が行くよ。俺なら自衛もできるし、目がいい。イカサマも暴けると思う」 「失敗したら身ぐるみ剥がされちゃうわよ?」 「そんなヘマしないよ。何より母上の勝負強さ、俺は受け継いでると思うけれど」  言えばシルヴィアは嬉しそうに笑った。 「僕は勘弁。ギャンブルなんて興味ないし。店の見取り図とか調べてファウストに渡しておくよ。何かマズければ違法賭博の疑い有りで全員引き立てればいいし」 「強引過ぎるな。他の罪状も欲しい」 「それについては俺にお任せ。絶対掴んでくるから」  互いがニッと笑い合う。こうしてとうとう、不埒者の討伐が開始されたのだった。
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