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5年前の事を思い出していた。
台所の窓から広大なじゃがいも畑を見ながら、コロッケに入れるひき肉と玉ねぎを炒めている。
『下味にウスターソースを少し入れて炒めるの、じゃがいもは少しの塩胡椒、茹でてからお湯をきってそのまま少し置いてね、蒸気が飛んでホクホクになるから…』
3年前事故で死んじゃったお母さんの言葉を思い出していた。
お母さんみたいに10人余りの入寮社員の御飯は作れない。お母さんの幼なじみの真弓さんに頼み、近所の主婦さん達を集めてもらい、パートで来てもらっている。
今私が作っているのはお父さんと私の分だけ。そのお父さんは、お母さんが作っていたじゃかいも料理が大好きだった。私が再現すると、深くなった顔の皺が一層くしゃくしゃになる位「旨い!」と言って喜んでくれる。
コロッケや肉じゃがみたいな定番は当たり前。新鮮なじゃがいもしか出来ない千切りサラダ、ニョッキ、じゃかいもとチーズのガレット……まだまだある。
本当にお母さんはじゃかいもを美味しく、美しく変身させる天才だった。
「おっ!凛子、今日はコロッケか」
仕事から上がって台所に顔を出したお父さんは喜んでいる。
「うん、自分でもかなり上達したと思ってんだけどね」
ペタペタと形を整えながら振り向いた。
「そうだな、コロッケもだけど殆どお母さんの味になったな……残るは後1つだ!」
茶化す様に言いながらお風呂場に向かって歩いて行く足音が聞こえた。
「ッチッ!わかってるわ!」
綺麗に整えたコロッケを見つめて独り言を言った。
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