10人が本棚に入れています
本棚に追加
「いただきま~す!」
お父さんと向かい合って手を合わせた。揚げたてのコロッケをハフハフしながら食べる。
「凛子、揚げたては旨いけどさぁ、熱すぎて味わかんねえよ!」
「はぁ?この前は頃合い見て揚げろ!冷めてちゃじゃがいもの旨味がわかんねぇっていったじゃん!」
「丁度いい熱さにしろって事だよ!」
「あのね!お母さんからは肉じゃがだけは少し冷ましたほうが味が染みて美味しくなる、それ以外は出来たてを出すんだって言ってたから……」
「ハイハイそうだな!ったく、減らず口ばかりたたきやがって!」
それから漸く無言の時間が過ぎて。
「私、食べ終わったら寮に顔出して来る」
ぶっきらぼうにお父さんは吐き捨てる様に「なんでぇ?」と聞いて来た。
「真弓さんに聞きたい事あっから」
「ふ~ん……」
気まずい雰囲気の食事が終わり、私は寮に向かった。
「お疲れ様です」
食堂の裏口から顔を出すと、ちょっと小太りのホンワリした笑顔が私を迎えてくれた。
「来た来た!凛子ちゃん、又お料理の事?」
「ううん今日は違うの、あれ?真弓さん何してんの?」
「あっこれ?お酢を移してるの。このお酢はね酸味が丁度良くてね。本当はお酢と言えば滋賀らしいんだけど、前にお母さんと岐阜に旅行行った時、この酢に出会ってそれから取り寄せてるのよ」
「岐阜ってお酢の名産地なの?」
「全国では3位らしわよ。で、凛子ちゃんは?」
「あっそうだ…これ……」
私は一枚の写真を差し出した。
その写真を見て、真弓さんの笑顔が音を立てる様に消えた。
最初のコメントを投稿しよう!