繋いでゆく想い

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 1  徳島の主であり、四又――藍神との決戦から約三日後。  シンは目を覚ました。  というのも、藍神撃破直後、シンの瞳の色が金色から、元の赤眼へと戻った瞬間……まるで糸の切れた操り人形の如く彼は倒れたのだ。  慌てて県民の皆さんが介抱し。  運良く、猫又による襲撃を受けなかったホテルへと搬送され、フワフワのベットの上で約三日間……爆睡していた。  そして三日後の十月九日、昼の十二時を回った頃、ようやく彼は目を覚ましたのだ。  覚醒したシンの目が最初に捉えたのは、彼が助け、守り抜いた両親であった。  感動の再会――とはならず……。 「シン! 大丈夫!? シン!!」 「目を覚ました! 先生を呼んでくれ!!」  シンが目覚めた事に興奮するあまり、号泣する母……咲良と。  冷静に事を運ぼうとする父……慎一郎。  普段と変わらない二人を見て、シンは起床早々、拍子抜けした気分になった。 「ま、何にせよ、無事で良かったやないか」  その後、部屋の中に押し寄せて来た県民の人達に次から次へと御礼を言われ、気疲れからヘトヘトになりつつ、外の空気を吸おうと屋上に向かった先で、ケンイチと三日ぶりの再会を果たした。  シンが、目覚めてからの一連の流れを説明すると、ケンイチは笑って上記の発言をしたという運びだ。 「それもそうだな……二人共、無事で良かった」 「あの二人だけちゃうやろ。あの数の人間……自分、ちゃんと守り抜いたやろ……有言実行。大したもんやで、自分。四又も。ワイの面目丸潰れやで」 「それはたまたまだよ……」 「たまたま?」 「たまたま、あの猫又が、人を攫って自分の手で殺す――なんていう思想を持っていたから、あの人達は生きていられたんだ……そうじゃなかったら……今頃皆……」 「ん、それが分かっとるのなら、何も心配要らへんな!」  そう笑って、ケンイチはシンの背中をバシンッと叩いた。 「し……心配?」 「ああ。ここで自分が――全部オレの手柄やでー! ……何て自惚れてるようやったら、五発ぐらいどついたろ思うてたけど、その必要はないみたいで何よりやわ」 「……本当に、何よりだな……」 「ま、自惚れ過ぎもようないけど、謙虚過ぎるんもどうかと思うで?」 「と、言うと?」 「自分は、……これについては、ガチで胸張ってええと思うで。ホンマ凄いわ、自分……」  ケンイチは、少し悔しさを滲ませる笑みを浮かべながら、空を見上げ、呟いた。 「ワイには……出来んかった事やからなぁ……」  きっと彼にも……色々とあったのだろう。  シンは、その事を詳しく尋ねようか迷ったが、尋ねない事にした。  いつか……自分から話してくれる日を、待つ事にしたのだ。 「あ、そうや」  そんな訳で、どんな風に話を切り替えようかとシンが悩んでいると、ケンイチの方から話を変えてきた。 「結局分かったんか? 弱なったり強なったりする――」 「……まぁ、何となく理解は出来たかな……と、思う」 「ん、言うてみ? 答え合わせや」  シンは、彼なりの答えを述べる。 「多分……だけど。……だと思う」 「ふむ、間違いなく正解やろな。ワイが思うに――――の方が近いと思うんやけど」 「誰とでも、互角?」 「ああ……弱い奴とも、強い奴とも対等に戦うっちゅう事や。あの四又の憎しみをも、平等な視点で受け止めようとする、自分には、その言い方の方がしっくり来るやろ?」 「……そうなのかな?」 「ははっ、やっぱ自分では、よー分からんか」  そして、次なる話題へと進む。 「ほな、砂時計の方はどんなや?」 「え?」 「えって……自分、アレをがっつり発動させてたやろ。砂時計の方の答えも、分かったんとちゃうんか?」 「えーっと……うん、まぁ、それなりには?」 「言うてみ言うてみ。とは言うても、こればかりはワイにも答えが分からんのやけどな」  ウキウキとしているケンイチ。  そんな彼に対して、シンは答える。 「強いて言うなら……?」 「何やそれ無敵やん」 「それと……」 「まだあんのかい!」  シンは、満面の笑みのまま大空を見上げつつ、言った。 「会いたいと思う人に……会える能力――かな」  キョトンとするケンイチ。 「は? 何やそれ?」 「ははっ、そうなるよな。実はな――」  シンが笑顔で話し始める。  藍神との闘い。その終盤――  彼の前に突然現れた――の話を。  先日までの激闘が嘘のように、澄み渡って広がる青空の下で……シンは満面の笑顔で、話し始めたのだった。
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