繋いでゆく想い

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 2  ネネは、大決戦が繰り広げられた徳島城へと足を運んでいた。  至る所が瓦解しているお城。  牢としての機能を有していた大きな穴。  大決戦中は殺伐としていた、この空間も、戦闘を終えれば空虚なものだった。  今、ここ……徳島県には恐らく、猫又はもういない。  先日の戦いで、物理的に千体近くの猫又を葬ったのは勿論の事。主を倒した、というのが一番大きな理由だ。  藍色の液体を操る異能を持っていた――主。  あの四又こそが、徳島県下では最強の猫又だったであろう。  その最強が敗れたのだ。  部下や、格下である二又がこの地に居られる筈もない。  県下最強の四又……。 「それを一人で……だものな……やはりマナカ、お前の彼氏は凄いな……」 「ん? 何が凄いんだ?」 「!?」  突然背後から声を掛けられ、ビクッ! としたネネ。  心臓をバクバクさせながら、恐る恐る振り返るとそこにはシンがいた。  「よっ」と、彼は笑顔で手を掲げている。 「……目が覚めたようだな」 「ああ。お陰様でな。もうお目目パッチリだよ」 「そうか、それは良かった。何よりだよ」 「…………」  シンも、先日戦いが行われたその場所を見て、ちょっとした空虚感に包まれた。 「ここで本当に……数日前、あんな戦いがあったなんて、信じられねぇよな……」 「ああ……何もかもが夢のような気がしてしまうよ。そんな風に思っては、いけない筈、なのにな……」 「ああ……そうだな……」  夢……そんな曖昧なもので終わらせてしまう訳にはいかない。  この一件では――。  今が平和なら、それを夢物語のように振り返ろう等という考えは、犠牲者への冒涜とも言える。 「沢山の人が……亡くなっちまったな……」  シンのその言葉に。 「いや、沢山の人を守り抜いたんだ……シン、お前がな」  ネネはそう返答した。  ここでシンはようやく、に踏み切る事にした。 「……いや……だってオレはハヅキを……」 「シン、それは違うぞ」  シンの言葉に被せるような形で、ネネは彼の意見を真っ向から否定した。  まるで、そんな台詞は聞きたくない、と言わんばかりに。  ネネは言う。 「ハヅキは……私達のだったのだ。共に戦う、仲間。だから彼女は勇敢に戦って、そして散った……それが真実だ」 「…………」 「シン……お前今、『ハヅキの事を』等と言おうとしただろう」 「……ああ」 「それは、ハヅキに対する最大の侮辱だ。今後そのような発言は絶対に控えろ。分かったな?」 「……了解っす」  シンは納得したようだった。  ネネが怒るのも無理はない。何故ならば、ハヅキだけでなくネネも、そしてケンイチも……シンと同じく、。  ――なのだから。  彼、彼女らは……なのだから。  だからこその、侮辱――  共に戦うべき友を見下した、上から目線。  シンは当然、その事を理解している。 「自惚れた発言だった。ごめん……」 「謝るのなら私にではない。ハヅキにだ」 「……そうだな。……ごめんな、ハヅキ……」  シンは祈る。  せめて……安らかな眠りを、と。  これくらいの祈りならば、彼女も許してくれるだろうと思って……。 「あ、因みに『安らかな眠りを』等と祈ってもぶん殴られると思うぞ」 「じゃあ何祈ってもダメじゃん!」 「だって……」  ネネは……自分の胸の上に手を乗せる。 「ハヅキはまだ――」  その言葉で、シンは理解した。  何故ならば彼も……。 「ははっ、それなら確かに殴られるな」 「だろ?」 「つーか二人共、いつの間にそんなに仲良くなったんだよ」 「そうだな……いつの間に……か……」  ネネは思い出す。  猫又襲撃後……ハヅキと二人きりで過ごした、あの日々を……。  トレーニングルームで過ごした日々。  二人で歩いた道。 「うん。それは内緒にしておこう」 「えー! 何だよそれー!」 「あははっ」  満面の笑みで笑うネネ。  それは……シンの前で初めて見せた、彼女の顔だった。  その姿を見てシンは不覚にも……。 「……あれ?」 「ん? どうかしたのか?」 「い、いや、何でもない」 「? そうか……」  ネネは続ける。  今際の際、ハヅキに託された言葉を思い出しながら……。 「ハヅキは事切れる直前まで、両親の事を心配していた。それを私は託された訳だが……結局の所、シンが全部救ってしまったな」 「……オレだけの力じゃねぇよ。ネネもケンイチも、そしてハヅキも……マナカも……他の人達も、誰か一人でも欠けてたら、きっとこの結果には至れなかった。これは、皆で勝ち取った勝利だ」 「……フフっ。お前ならそう言うと思ったよ。シン」 「そうなのか? まぁ、ご期待に添える事が出来たのなら良かったよ。……つーか、?」 「え?」 「?」 「ああ、その事か……」  ネネはもう一つ思い出す。  それは、ハヅキの言葉だ。 『シンを……信じてあげて』 「…………なぁシン……」 「ん? 何だよ」 「実はな……私の両親は――――」  そしてネネは、シンに本当の事を打ち明けたのだった。
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