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「もっと見たかった?」
唐突に耳をつつく、少女の声。
慌てて横を見ると、そこには明らかに自分よりも年下の、こじんまりとした女の子がちょこんと座っていた。
いつから居たのか、誰なのか、この問いは果たして俺に向けられたものなのか。
何故だか、それが今はどうでもいいことに思えてならなかった。
「見たいって、何が。」
子供たちの事を言っているのはおおよそわかっていたが、わざと聞き返す。
が、少女は予想に反して
「宇宙人って呼ばれた気分はどう?」
質問には一切答えず、そんなことを抜かし始めた。どこか遠くを見つめたまま、一瞥もくれない。その一言に挑発の色は感じなかったが、どう答えていいものか、しばし返答に困る。
俺が答えに詰まって黙っていると、少女はあどけなく笑い始めた。
「本当に滑稽。もうお日様なんて登るわけないのにね。」
そう言うと、途端に笑みを切り落とした無表情で
「砂漠に落ちた種が芽吹くなんてありえない。」
と、冷たく吐き捨てた。
言っていることも支離滅裂で意味不明だが、何より、表情と声色がまるでスイッチを切り替えるようにコロコロと変わってしまうことに、どうしようもない恐怖を覚える。
どれくらい時が経ったか、それから少女は何も言わなくなってしまった。自分の言いたいことだけをまくし立てて、口を閉ざしてしまったからだ。
初めから俺なんて見えていなかった?
そんな風に思えるほど、少女との一時は一方的だった。
今一度、少女をチラリと盗み見る。
肩で切り揃えた髪は緩やかにウェーブがかかり、整った目鼻立ちは横顔を凛と引き締めていて綺麗だ。
けれども、眼―
その眼は深く澱んで色を失っていた。沼の底に沈み込む朽木を連想させる褪せた瞳は、ただただ地平線の先を見つめるだけだ。
思えば、少女は俺と会話などしようとしていなかった。独り言ならば、こちらには意味が通らなくても、何らおかしくはない。
おかしな子に出会ってしまったな…とは思うが、かと言って何か害があるわけでもないから、そのまま座り続ける。
手持ち無沙汰に口をつけるコーヒーが、泥をすするように喉にまとわりついた。
そしてまた静寂。
いっそこのまま夜になってもいいか…と思っていたその時だった。
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