0人が本棚に入れています
本棚に追加
「見たいでしょ?」
「!???!!」
ふと気がつくと、鼻が着くほどの至近距離に顔。余りに突然の出来事に、口に含んでいたコーヒーを盛大に吹いてしまった。
まずいと思い少女を見るが、全く臆せず、うす紅色の頬に着いた褐色の液体を、拭き取る素振りすらない。
先程まで一切こちらに構うことなく話をしていた少女が、灰色の真っ直ぐな眼差しを向け、問い続ける。
「夢、見たいんでしょ?」
夢という単語に、不意に思考が止まる。
少女はふわりと立ち上がった。遅れてほのかに甘く、そして柔らかい香りが鼻をくすぐった。
掌にこれまた柔らかな感覚。一呼吸置いて、手を握られていることに気がつく。
そして一気に引っ張られた。少し痛い。
見上げると、少女が不服そうにこちらを見つめる。
「見たくないの?」
少女の可愛らしい顔を正面から見つめて、初めて気がついた。
この娘は、喋る時に口が開いていない―
いよいよ頭がパンクしかけて、目を逸らした。
夢…は見たい。その為にずっと寝ては起きてを繰り返してきた。
けれども何も見れないまま、目が覚めるだけ。神様はいつしか、寝ているときでさえ、夢を見ることを許してくれなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!