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――――…………
「どいてくれないか」
目の前で背中を向けている男性たちに久我は声をかけた。
直前まで別の仕事があった関係で店のオープン時間をいつもより遅くしたその夜、店の入り口には数人の若い男性たちが屯していた。
ちょっとガラの悪い面々は、どうやらオープン待ちのうちの客……なわけないな、と久我は苦笑いする。
何やら面倒くさそうな予感しかしなかった。
「あ? 何だテメー。邪魔すんな」
男らのうちの一人が不機嫌そうに久我に詰め寄った。
「そこ、店の入り口なんだよ」
「取り込み中だ。失せろ」
「そうは言われてもね……営業妨害は困る」
「うるせーな。引っ込んでろよ」
話の通じなさそうな男らを久我は煩わしげに見やりつつ、面倒くさくなって思わず溜息を溢して呟く。
「引っ込みたくても入れねーよ。引っ込ませてくれっての」
「あ? 何だよ、ブツブツと。しつけーな。黙れよ!」
男に胸倉を掴まれてうんざりした久我は、仕方なく、その手を上から握りしめることにした。すると久我に拳をグッと握られた途端、男は顔を歪めた。
「痛ッ……! なっ、何だそれ……ッ! はな、離せっ……」
久我はさらに手に力をこめながらニヤリと笑って告げる。
「お前が掴みかかってくるから悪いんだ。俺は防御してるだけだ。さて、警察でも呼ぼうか?」
「わか、わかった……から離せっ……」
言われたとおり手を離すと、クソッと文句ありげに睨みつけて男らは足早に去っていった。
「……で、これはどうしろと?」
面倒くさそうな予感は的中。案の定、追い払った男たちは面倒なものを――いや、人を残していった。
「あー……これはどうすっかな……」
ぐったりと店のドアに寄りかかるのは一人の女性。そして薄手のコートの内側にチラリと見えるのは――
「制服……。勘弁してくれ。高校生かよ」
これが澪であったわけだが、この時久我は澪が大学生だとは知らなかった。
久我は頭を抱えつつ、その高校生に声をかける。
「おい、起きろ。おーい」
「ん~……」
ムニャムニャとちょっと緩んだ顔をして眠っているこの高校生にはさらなる問題が。
「酒臭いと来たか……。あーー、何考えてんだ、まったく……面倒なもん置いていきやがって」
これは厄介。さて、どうしたらいいものか。
警察に保護してもらうべきか、とも思ったが、本人が痛手を食う結果にしかならないだろう。
さて、どうするべきか。店のオープン時間も迫っていて、ここに放置するわけにもいかない。
久我は深く溜息をつくと、とりあえず様子見をすることにして高校生を抱き抱えた。
「……俺、捕まったりするのかな」
一抹の不安を抱えつつ、家の中に運び込んだ。
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