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cocktail.01 保護される
心地よい温かさの中で微睡んでいると、澪(れい)は昨夜のことを徐々に思い出す。
昨夜は大学の新歓コンパで昼間から飲み始め、途中、女子高生のコスプレをして踊ったのだ。新入生や在校生たちに大いにウケた。
みんなと別れるまではハッキリしているが、その後、家へ帰ろうと歩き出したところでアルコールが回って……あれ、覚えてない。
「あ~……お酒って後から来るものなんだ……」
頭痛に苛まれて、眉間を押さえて目を瞑る。
「そうだよ。飲み方知らないもんな」
「うーん、初めて飲んだから……」
「だろうな」
寝ぼけながらそこまで会話してハッとする。
「うっ……うわッ!」
バタバタ、ドサッ、ガサッと派手な音を立ててベッドから飛び出した。
脇にあったカバンに足を引っ掛けたが、そんなことに構ってる場合ではない。もっと重要な案件が目の前にあるではないか。
あろうことか、知らない男が同じベッドで寝ていた。パッと見、二十代半ばくらいの男性であると推察する。
そして充分な距離を取ってから、慌てて腕や脚を見て自分の全身状態を確認した。
「あ……あれ……? どうして平気……?」
自分の体に何の反応もないことに首を傾げる。
「言っとくけど、何もしてないからな」
呆れたような顔で自分を見つめるのは、紛れもなく『男性』だ。
「だ……誰……?」
隣に侍っていたであろう男性に問うと、男性はフッと柔らかく笑った。
「君の拾い主」
「拾い……主?」
「うちの店の前で男たちに囲まれてたんだ。で、そいつらが捌けて君が残った」
「ん? 男……たち……?」
「ああ。覚えてないの?」
「私、家に帰ろうとして、途中でグラグラしてきて……後のことは……」
「ふうん。じゃあ、知らないやつらに連れ去られそうになってたわけだ」
「えっ!?」
それを聞いて澪は背筋が凍る思いがして身を縮めた。
すると男性は横向きに寝転がって頬杖をついたまま訝しげな表情で問う。
「高校生のくせに酒なんか飲んだのか? 制服で堂々と。どうなってるんだ、近頃のガキは」
「高校……生……? あっ」
そうだ、制服を着たままだった。
……え、高校生に見えるの?
ちょっと嬉しい、なんていう呑気な考えは慌ててかき消す。
「違います。私、昨日20歳になりました。大学生です」
それを聞いた男性は、途端にベッドに突っ伏した。
「何っだよ……ったく。手出してもよかったのか。俺の根性返せよ」
「は?」
「ちょっと大人っぽく見えたけど制服着てたからな。高校生だと思ってやめといたんだよ」
がっかりした様子でブツブツ呟く男性を見て、澪はプルプルと震えながらギロリと睨んだ。
「最っ低。ケダモノ」
「ん? ちょっと待て、誤解するな。俺はお前に――」
「助けていただいてありがとうございました。さようなら」
澪は先程足で引っ掛けて散らかした荷物を大慌てで纏めると、部屋を出て玄関のドアをバタンと閉めた。
外に出てみると、気分とは真逆の、春の柔らかい日差しが空から降り注ぐ。
ちょっと居たたまれない気分を抱えつつ、外階段で1階に下りられるようになっていたので、そこから足早に階段を下りていった。
手ぐして髪を整えていると、1階には『Wine Bar FuGun(ワインバー・フーガン)』という看板が見えた。
飲み会の席や二次会などで間違えてこの店に来ることのないよう、しっかりと店名をインプットしておこう。
「二度と来るか、変態!」
プイッと店に背を向けて、澪は家へ向かって歩き出した。
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