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罪状
静まり返った法廷で、目立たぬように声を殺しながら炎舞の格闘家、ファイが灼熱の魔術師、アカネに言う。
「おい、あの裁判長、怖すぎねえか」
クラリスは視線を動かさずに返事をする。
「あの裁判長は法廷都市建国の指導者の一人、グランドファザー、マルテグスです。当時のあだ名は”鉄の番人”。徹底的な合理主義で、情状酌量など、彼の前では望むべくもない」
「それって、アレンの奴、かなりやばくないか?」
「やばいですよ」
二人は弁護士側の席に同席しており、その隣には灰塵の剣士、グレンが腕を組み、仏頂面で座っている。
「動じるな。この程度の困難など幾度も乗り越えてきた。それに、我々は仮にも世界を救った勇者一行。どんと構えていればいい」
そう言い切ったグレンは頻りに貧乏ゆすりをしており、その度に弁護人側の席が揺れる。
「てめえが一番動揺してんじゃんよ……」
木槌の音が鳴る。
「それでは、検察官。彼の、いや、正確には彼等の罪状を」
「はい」
検察官は厳かに立ち上がり、手元の書類に目を落とす。
「彼等は、知っての通りこの世界を救った勇者一行、彼等に称賛の声を上げるものが大半だと思われます。しかし、そうでない者達も存在します。というのも、彼等は勇者の第一種亜空能力、”レベルアップ”を発動させる為に、魔物に留まらず、リズヴァルトの動植物、妖精、あらゆる命を簒奪し、その能力の糧とした。これはリズヴァルトの生態系全体に及ぶほどの由々しき問題です。よって、彼等には生態系を修復するために必要な資金として、賠償金50億ベルスを請求します!」
検察官の言葉に、グレンは椅子ごとひっくり返り、白眼を剥いて泡を吹いた。アカネは冷静に自分たちに支払可能かを計算し始め、ファイは大声を上げる。
「うおい! ちょい待て! 魔王討伐で俺らが貰ったのが2億ベルスだぞ! んなもん、払える訳ねえじゃねえか!」
「弁護人! 発言は許可していない!」
裁判長マルテグスの怒号が響き渡り、ファイは否応なしに黙らされた。
おずおずと、勇者アレンが手を挙げる。
「さ、裁判長。発言を許可してください」
「宜しい」
アレンは咳払いをして、自分たちの正当性を述べ始める。
「まず、私達は世界を救った。これをいずれにせよ認めていただきたい。そしてこれを認めた後に、魔王がこの世界にとってどれほどの脅威であったかを認めて欲しい。先程検察官の方が、生態系に深刻な影響を与えたと言いましたが、もし魔王が存命であれば我々が行ったことと比にならない程の被害が生態系に及んだはず。魔王は触れたものを全て死に追いやる禁忌魔法デス・ペル・ガオンを常時発動していたし、同時に死者を自分の傀儡として蘇らせるこれまた禁忌魔法リゼレ・ヨミ・ルーラも使用していた。奴は死者の国の王になろうとしていた。全てが死に包まれる前に、何としても奴を倒す必要があった。疎ですよね? そして、奴を倒すには、私が持つ第一種亜空能力、とあなた達が呼ぶ私のスキル、それでレベルアップを使用する必要があったんです。魔王はレベル50以下の生命を全て死に追いやることが出来る。そして、この世界にはレベル1以外の生命が存在しない。だから……」
「だから、罪もない動植物の命すらも奪った。それで宜しいですか?」
「だって、この世界の魔物は無限湧きじゃないんですもの! 魔物を探すのにだって時間が食う! だったらそこいらの動植物を斃していった方が効率が良かったんだ!」
傍聴席がざわめく。検察官は不敵な笑みを浮かべ、アレンは崖際に追い込まれているのを感じた。
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