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永い言い訳
「でも、考えてみてくださいよ!」
アレンは(いや、本名は佐藤大悟なのだが、それはさておき)大声で喚く。
「こんなことを言うのは勇者的にどうなんだってなるでしょうけども、動植物と人間だったら、人間の命の方が絶対に大事じゃないですか! その人間の命を守るために多少の犠牲はつきものじゃないですか。皆だって、そうやって命に優劣をつけているでしょう? 他の生物を殺さずに生きていかなくちゃ駄目なんて、そしたら餓死するしかないじゃないですか! ここにいる皆さんだって、今日の朝、何を食べて法廷に来たんですか! 動物だったり、植物でしょうが! そうじゃないって人、いますか!」
検察官はいかにも呆れたという風に首を横に振りながら、溜息をついた。
「なるほど。あなたが行った行為は、我々が普段行っている食事とそう変わらない。だから自分らに罪はない。そう言いたいのですね」
「まあ、言ってしまえば」
アレンは嫌な予感がしたが、頷く他なかった。
「では、あなたは随分と大食らいのようだ」
検察官は手元の資料を見る。
「では、あなた方の行ってきた食事を振り返ってみましょう。まず、ドワングの森、焼失。ドワングの森には希少価値の高い霊草が数多く群生していた。この森にしか生えていない医療用の霊草だってあった。それらの消失によって、今も難病に苦しむ患者たちが怨嗟の声を上げながら死に絶えている」
アレンは顎をぐっと引き、顔を顰める。
「次に霊験あらたかな、神代より続く霊峰エルキメデス、崩落。エルキメデスを擁するイグドミニア王国は著しく観光産業が廃れ、此処にしか現れぬ幸福を招く霊獣アルシオンはその姿をついぞ見せなくなった。そもそも、あなた方が霊獣アルシオンを討伐したという報告すら受けている」
ファイはこそっとアカネに耳打ちをする。
「え、アルシオンって、毛皮がめっちゃ高く売れた、あいつ? あいつ殺しちゃダメだったの?」
「路銀に困っていたとはいえ、早計だったわね」
「お前、知ってたのかよ!」
「そこ、静粛に!」
甲高い木槌の音に、二人は身を縮こまらせ、口をつぐむ。
「そして、これまたイグドミニア王国擁する、エルフの森、焼失。エルフしか知らぬ霊薬の配合方法の喪失と、エルフの一族のみが使用できる光魔法の継承不可の事態。これはあなた方のフルコースのほんの一部ですか、まだ申し開きがありますか?」
傍聴席の人々から向けられる視線は、勇者に対する畏敬の念ではなく、蛮人を下げずむ侮蔑を孕んだものになっていた。アレンは滝のような汗を滴らせ、体をぶるぶると震わした。そして、ゆっくりと弁護人の席を指差した。
「ち、違うんですよ。全部、俺じゃなくて、あいつらがやったんですよぉ」
「は!? アレンてめえ! 何、俺達に責任擦り付けてんだよ!」
ファイがこめかみに青筋を立てながら怒鳴る。
「そうよ! 見苦しいわ!」
アカネは悲しそうに首を横に振る。
「貴様を好敵手だと思っていたのに、見損なったぞ!」
グレンは炎の紋章を右の瞳に浮かび上がらせながら、アレンを睨みつける。
戦友たちが次々と怒りの声を上げるが、構わずアレンは続ける。
「うるせぇ! 本当にお前らの所為じゃねえか! ドワングの森はファイが新必殺技を覚えたとか言って、見せびらかすために神木を炎の拳で殴り倒したからじゃないか! エルキメデスの崩落はアカネが爆発魔法を暴発させたからだし、エルフの森はグレンが魔王の四天王を炙りだすとか言って、片っ端から炎の紋章の力を使って火炎魔法を使ったせいじゃないか!」
「いや、あれはだって、俺というキャラクターの成長を描写するために必要だったし」
ファイは頭を掻きながら言う。
「私のあれはギャグ時空だと思っていたわ。次の日には何事も無くあの霊峰はそこにあると思っていたわ」
アカネは真顔で言い切る。
「私のあれは、こう、単純なバトルではなく、知的な面で相手を追い詰める場面を作りたかったからだ」
グレンが顎に手を当てて言う。
「ふざけんな! ラノベじゃないんだよ! 大体お前ら、炎舞だの灼熱だの灰塵だの、何でこうも爆発だの炎だのの属性しかいないんだよ! 普通こういうのは、炎がいたら後他は光とか水とか闇とか、それ以外の属性になるだろうが! 揃いも揃って炎で雁首揃えやがって!」
そんなこと言われても、と勇者一行の仲間たちはしゅんとしてしまう。傍聴席の人々はその様子を見て、Oh……、と悲しそうな声を出す。意外とアメリカナイズされた傍聴人達だった。
「しかも、ファイは脳筋、アカネはドジっ子、グレンは天然。全員何かやらかす性格してやがる! 偏りが凄いんだよ! ねえ、裁判長! これ、俺は悪くないですって!」
すると、裁判長は勇者を睥睨しながら静かに口を開く。
「否、汝にも罪はある」
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