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「わたしお葬式終わった後、トールに電話したの。電話が繋がらないから、もう嫌われちゃったんだと思って……。
それに、徳ちゃんから、もう会うつもりは無いと聞いてるから、早く忘れろって言われてたの」
携帯の設定を調べると、着信と発信の拒否設定がしてあるだけという、なんとも簡単な手口だった。
そんなものに半年以上も振り回されて、気がつけなかったわたしは、自分にとてもがっかりした。
「長沼に、お互いの不安な気持ちを利用されたわけだ。あいつとは……どうなったの?」
「徳ちゃんとは、ちゃんとケリをつけました。わたしはまだ、トールを忘れてないって言って凄く怒らせたので、たぶん、もう会わないです……」
ドキドキしながら告白まがいのことを言うと、沖島さんは泣きそうになった。
「ーーーーずっと連絡出来なくて悪かった」
「うん」
「まだ、自惚れててもいいんだよな?」
「ーーうん!」
沖島さんが顔を傾けたら、ミルクティー色のオールバックがさらりとひと筋落ちた。
綺麗な顔が、ゆっくりと近づいてくる。
柔らかい唇がふわっと押し当てられ、久しぶりの感覚にぎゅっと目を瞑った。
心臓がバクバクした。
服を掴む手がふるえていた。
指が、瞼を、鼻を、頬を、存在を確かめるように撫で、沖島さんの唇が後からそれを辿った。
「敬語禁止にしたはずなのに、ちょっと会わない間に最初の頃にもどっちゃったな」
沖島さんは、泣きそうな顔のまま、ふはっと空気を吐き出して笑った。
またその顔で号泣してしまう。
「トール」
「トール」
たくさん名前を呼んで、温もりを確かめて、やっと夢ではないのだと思えた。
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