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話は1ヶ月前に遡る。 ーーーーーーー 父と母と車に乗っていた時だった。 その日の運転手は母。 わたしは塾の帰りで、先に拾ってもらい、偶々同じ時間帯に、出張先から帰ってきて、駅に着いたお父さんを一緒に迎えに行った帰りだった。 「ナイスタイミングだよ~。なんか雨も降り始めてたし、迎えに来てもらえて助かった」 お父さんは、はー疲れた、と後ろの席でネクタイを緩めた。 「お疲れ様。お夕飯食べたわよね。夜食いる?」 「おー、新幹線の中で弁当食べたから大丈夫」 「ビールも飲んだでしょう。お酒臭ーい」 助手席から振り向いて苦い顔を見せる。 お父さんは、許せ大人の付き合いだ。なんて笑っていた。 「しいちゃんは夜食食べる?」 「いらないよ!太っちゃうもん」 「でも帰ったらまた勉強するんでしょ?」 「お腹すいてると頭働かなくないか?」 「お腹いっぱいだと眠くなっちゃうの」 高校三年のわたしは受験に備えて週3で塾のスケジュール。日々勉強ずくめで、忙しい日々を送っていた。 「そんなに根つめて勉強しなくても、体育大の推薦貰えそうなんだろ?」 「そうだけど、まだ確定してないし、授業ついていけないと困るじゃん?部活ギリギリまでやってたから、みんなより遅れを取ってる気がするし、焦るんだよね」 平凡な家庭と、平凡な日常。 なんの特別もなかったわたしは、この日を境に非凡へと変わった。 「なんだか、バイクが煩いな」 お父さんが窓の外を見ながら呟いた。 駅を出て、国道に出るまでの街中の道。 この近辺は大きな暴走族のチームがあるらしく、夜中窓を開けていると、煩くて眠れない事が定期的にあった。 「いやだわぁ」 「暴走族だな。なんだ、もう走ってるのか。 いつもはもっと夜中だろ?」 睡眠も勉強も邪魔する暴走族は、迷惑で嫌いだった。バイクで煩く走るだけの、何が楽しいのだろう。窓の外に目をやり、顔をしかめた。 だんだんとバイクの音が近づいている気がした。 「近いな...」 お父さんも同じことを思ったらしい。 「早めに帰りましょう」 お母さんはほんと迷惑だわ、とため息をつきながら車を走らせた。 もうすぐ大きな交差点。バイクの音が、近くまで迫っていた。 交差点に差し掛かる直前、車の前に大きな影が飛び出した。 お母さんの悲鳴と急ブレーキの音、自分の体が前方に飛び出す感覚と、ガシャーンという破壊音。 弄っていた携帯や膝の上に置いていた鞄が、宙に浮いたのが見えた。 一瞬シートベルトに胸とお腹が押されて、痛かったような気がする。 視界はそこで暗転する。 突然のことで、わたしには影しか見えていなかった。その影がなんだったのか、わたしたち家族に何が起こったのか、何もわからなかった。 朦朧とする意識のなかで、車の周辺にバイクの音が集まり、誰かの叫び声が飛び交っていたのを感じ取っていた。
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