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ふわりとバターの焼ける甘い香りが鼻をくすぐる。後を追うようにスパイスの匂いも届いて、ついつい目をやってしまう。店という空間から溢れ出したその香りは道をゆく人々の歩を鈍らせた。
昼時はにぎわっていたであろう店内も落ち着きを取り戻した午後三時半。夕方の買い出しには少し早く、買い物客は多くない。
「はあ、相変わらずいい匂い」
思わず声に出してしまった。
〝ベーカリー・ベリーカリー〟
なんだかふざけたような名のパン屋さんだが、その美味しさと人気はこの街一と評判だ。
その名の通り、看板商品はカレーパン。
秘伝特製スパイスのきいたオリジナルカレーがもっちもちのパン生地にからみ合い、口に入れた瞬間にとろける。舌に残るわずかな辛みが癖になる、なんとも美味な一品だ。
「チャンスね」
客足がまばらであることを確認し、店を目指す。
いつも混んでいて入れないのだ。冗談ではなく、客が多すぎて店内に入れない。最近では配布される整理券すら入手困難と聞く。
「よし、行くぞ」
ここまで話したが、実はわたしも初入店。気合いを入れたら正直なお腹がぐるると相槌を打った。
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