父の背中

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冷や汗が滝のように背中を流れるのを感じたとき、 「ただいま」 と、父の陽気な声が玄関から聞こえてきた。 その瞬間、私の身体が自由を取り戻す。 思わず、声のした方を見た。 廊下を千鳥足でペタペタと歩く父と目が合う。 呆然と立ち尽くす私を認めた父が、 「どうした?」 と、赤い顔で尋ねる。 私は何も言えず、 パクパクと口を動かしながら居間の方を指さした。 だがその先に、もうあの背中はなかった。
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