バレンタイン

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バレンタイン

ついに、二月がやってきてしまった……! いや、いつかはやってくるとわかってたんだけれども。こうして、いざ、やってくると、どうしたらいいのか戸惑ってしまう。 「どうしたの、朱里。頭を抱えて」 「彩月ちゃーん」 彩月ちゃんに思わず抱きつく。  「どうしよう、二月が来ちゃった」 「そりゃあ、いつかはくるでしょーよ。なんで、そんなに……ああ、バレンタインデーか」 彩月ちゃんはにやにやと笑った。もう、他人事だと思って。他人事だけどさ。  「でも、今年は逃げずにちゃんと、告白するって決めたんでしょう?」 「……うん」 正直にいって、お兄ちゃんに好かれる私になれている自信はない。でも、このままじゃ、いつまでたっても、逃げ続けてるだけだから。だから、私は、覚悟を決めないといけない。  「だったら、頑張らなきゃ」 「そうだよね、ありがとう」 バレンタインデーまで、あと少し。頑張るぞ。  「おっ、どうした? 今日の朝食は気合いが入ってるな」 「うん、ちょっとね」 いつもよりも品数の多い朝食にお父さんは驚いていた。少しでも料理の腕を磨いて、お兄ちゃんの好みの女性像に近づきたい。お兄ちゃんも、驚いていたけれど、美味しいねと笑ってくれた。  でも、もし、私が告白したら。この関係もなくなっちゃうのかな。もう、ただの義妹だった頃には戻れなくなって、お兄ちゃんとこうして笑いあうこともないのかな。  だって、振った相手が同じ家にいるんだもん。気まずいよね。って、いやいやいや、振られる前提で考えるな。前向きになるって決めたんだ。気まずくなったとしても、まずは、義妹じゃなくて、女の子として見てもらえたなら、それだけで告白した価値はあったんじゃないかな。  だから、そう、振られても私にとってはプラスだ。振られたからって、そこでおしまいじゃない。そこから、また、始めればいいんだから。  「よし」 バレンタインデー前日。まずは、お父さんとお兄ちゃん、彩月ちゃんにあげるココア味のクッキーを作った。クッキーはさくさくとしてとっても美味しくできた。その後、お兄ちゃんの好きな、チョコレートケーキ……は、ワンホールだと重いかなと思ったので、カップケーキサイズのフォンダンオショコラを作る。  「できた」 フォンダンオショコラは、味見ができなかったけれど、美味しそうな香りがしていたので、多分、大丈夫……大丈夫だと信じたい。綺麗にラッピングして、完成だ。あとは、告白するだけ! いや、そのだけが何より難しいんだけれども。  包みを鞄の中に入れて二階にあがり、お兄ちゃんの部屋へいく。 「お兄ちゃん」 「どうしたの、朱里?」 「あのね……」  緊張して、なんだか、口の中が乾燥する。でも、言わないといつまでたっても、義妹のままだ。 「明日、生徒会のお仕事が終わった後、時間を貰えないかな?」 「? いいよ」  やったー。第一関門はクリアだ。でも、これで、ますます逃げられなくなった。いや、でも、逃げちゃだめだから、これでいいのかもしれない。 「それだけ。勉強中にごめんね」 「ううん、全然大丈夫だよ」  新学期になってから、お兄ちゃんは本格的に受験勉強を始めている。一月にあった模試の結果も散々だったし、私もお兄ちゃんを見習って勉強しないとな。  「じゃあ、おやすみ」 「おやすみなさい」  ついにバレンタインデー当日。 「……一睡もできなかった」 コンシーラーでクマを隠す。一睡もできなかったけれど、頭はぎんぎんに冴えている。  「おはよ、朱里」 「おはよう、彩月ちゃん」 ハッピーバレンタイン、といいながら、彩月ちゃんがトリュフをくれた。私も、彩月ちゃんにクッキーを渡す。  「ん、このクッキー美味しい。小鳥遊先輩にも、これをあげるの?」 「いや、お兄ちゃんにはフォンダンオショコラをあげようとおもって」 お兄ちゃんはチョコレートケーキが好きだから。そういいながら、ラッピングをみせると、彩月ちゃんは本気だねぇと笑った。  「美味しそう。きっと、成功するよ、大丈夫」 「そうだといいなぁ」 振られるところしか想像できない。って、いやいやいや、また思考がマイナスになっている。振られてもいい。まずは、義妹を脱出することが大事なんだから。  意識が飛びそうになりながらも、授業を無事受け終わり、生徒会の時間だ。私たちの高校は特に、三年生を送る会などは行わないので、わりと暇だ。いつもの委員会会議の書類を作成して、終わった。  「じゃあ、お疲れ様」 と、みんな続々と帰っていくなか、私とお兄ちゃんは、生徒会室に残る。  「それで、朱里、どうしたの?」 お兄ちゃんが、首をかしげる。 「あのね、私、ずっと、お兄ちゃんのことが……」  私がいいかけたところで、がらがらがらっと、生徒会室の扉が開いた。  「小鳥遊せんぱーい! 渡したいものがあるんですけど……」 ▲ページ
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