ハッピーエンド

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ハッピーエンド

「……と、いっても僕は、まだ十七才だから、一年は先になるけど」 そ、そうだよね、あーびっくりした。  「でも、いずれは結婚しよう」 「お兄ちゃんちょっと、落ち着いて。私たち両思いになったばかりだし、結婚とかそういうのを考えるのはまだ早いと思うんだ」 「付き合うなら結婚前提も、お義父さんとの約束だし、僕は朱里以外と結婚するつもりはないからね」 お父さん、そんなことまで約束してたの!? まあでも、家の中でひっついたり別れたりされたら気まずいもんね。でも、びっくりだ。私が驚いていると、お兄ちゃんは更に続けた。  「それに、僕たちってほら、同棲してるみたいなものだし」 同棲って、あの同棲だよね。まあたしかに、同じ家に住んでいる、という点では、同棲なの、かな? いや、でも家事はほとんどお義母さんがしてくれているし、同棲とは違うような……。 「食の好みも性格もお互い把握してるし、家事や子育ても朱里任せにしないよ」 家事はともかく、子育てって!? いや、でも、結婚するならいつかは子供ができるかも知れないよね。確かにお兄ちゃんは頼れる旦那さんになりそうだ。って、いやいやいや、結婚とかまだ考えるのは早いって。  「それとも、朱里は僕と結婚したくない?」 それを聞くのはずるいと思う。 「……結婚したい、けど」 中学生の頃まで本気で将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さん、とか思ってたし。 「だったら、今日から僕たちは婚約者だね」 「ここここ、婚約者?」 いや、でも、結婚を約束したっていう意味では間違ってはない、のかな?  なんだかお兄ちゃんにすごく流されている気がするのは、気のせいだろうか。うーん、でも、お兄ちゃんは笑っているし、まあいいか。  私たちが付き合うことになったことを報告すると、その反応は様々だった。彩月ちゃんはやっとね、おめでとうと祝福してくれたし、冴木先輩は、ようやく胃薬に頼らなくてすむと泣いて喜んでくれた。問題のお父さんとお義母さんは、私たちの気持ちに気づいていたのか、特に驚くこともなく、認めてくれた。ただ、お父さんには、付き合うなら結婚前提であることと、結婚するまで清い交際を続けることを条件にされた。  ──それからの、私たちはというと。  「朱里、ごめん。待った?」 今日はあえて、外で待ち合わせをして、デートだ。走ってきたお兄ちゃんの頬っぺたは赤い。その頬を手袋で包んで首を振る。 「ううん、全然」  「そういえば、お兄ちゃん」 「ん?」 「ずっと、聞きたかったんだけど、いつから私のこと好きだったの?」 お兄ちゃんは、愛梨ちゃんと付き合っていた時期もあったし、好きになってくれたのは最近だよね。私がそういうと、お兄ちゃんは気まずそうに視線をそらした。  「……から」 「え?」 「初めて出会った日から、ずっと、好きだったよ」 「ええ!」  だったら、なんで、愛梨ちゃんと。 「朱里が、他の男と付き合いだしたからもうダメかと思って自棄になってたのと、朱里に嫉妬してほしくて」 そっか。私のせいだったんだ。もしかして、もしかしなくても、お兄ちゃんは、最初からヒロインである愛梨ちゃんのモノじゃなかったんだ。もっと、早くに好きだって言えば良かった。そしたら、空回りせずにすんだのかな。ううん、でも、それじゃあ、きっと、自信が持てない私のままだった。私が空回りしてた時間も無駄じゃない、と今なら思える。  「朱里も、なんで、他の男と付き合ったの?」 お兄ちゃんが頬を膨らませる。 「それは……色々あって」 そこを追求されると私も痛い。まさか、前世を思い出したなんて、頭の痛いこと言えるはずない。 「色々って、何?」 お兄ちゃんがじっとりとした目で、私を見る。  あはは、と誤魔化すように笑うとお兄ちゃんは、拗ねてしまった。どうしよう、拗ねたお兄ちゃんもかわいくて大好きだけれど、せっかくのデートだ。どうせなら、笑ってほしい。  だから、私は、謝罪するかわりに、お兄ちゃんの頬に口づけた。 「大好きだよ、優くん」  お兄ちゃんの頬がわかりやすく赤く染まり、固まった。私も恥ずかしいので、お兄ちゃんの手をとり、駆け出す。  「はやく行こうよ、お兄ちゃん」 お兄ちゃんは、ようやく、フリーズ状態から解け、大きなため息をついた。 「朱里って、ときどきほんとずるい」 「いつも、お兄ちゃんに私ばかりどきどきさせられてるから、そのお返しだよ」 「僕だって、なるべく顔に出さないように必死なだけで、どきどきしてるよ。……結婚したら、覚悟しててよね、朱里」  お兄ちゃんがにっこりと微笑む。なぜだか、その笑みに危機感を覚えつつも、お兄ちゃんの手を引いた。  いっぱい笑って。ときどきケンカして。それでも。お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ、じゃなくて、私の彼氏様で。そして、いつかは、私の旦那様、だから。先のことはまだわからないけれど、お兄ちゃんのことが大好きなことはきっと、ずっと、変わらない。だから、この手を離すことは、ないだろう。  ──小鳥遊朱里、十六才。  大好きなひとと歩んでいく。私の人生は、始まった、ばかりだ。
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