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「えへへへ。いっちーかぁわい。」
バーカウンターでちぅちぅと壱の顔を吸うそうのことを拒むでもなく受け入れ、ショットグラスのテキーラを飲み干す。
「おー。いい飲みっぷり。」
ヘラヘラと赤い顔で笑いながらカウンターの中で笑うバーテンダーは、赤い髪に首にエンジェルのタトゥーが入った男、桐生。
桐生は楽しそうに、テキーラをまた空いたショットグラスに注ぎトランプを配った。
「ババ抜きでも久しぶりにやると楽しいねぇ。」
子供のような笑顔を振りまきながら、そうはトランプを揃えてすてる。
「楽しいけど。なんで俺ばっか負けんの。」
「さっきの大富豪はそうばっか負けてたっけな。」
ケケッと笑う桐生に、そうは頬を膨らませテキーラをぐいっと桐生に渡す。
「そして、俺は負けてもないのに飲まされる!ノーテキーラノーライフ!」
グイッと飲み干し、ガンッとショットグラスを置いた桐生は急いでグラスに入った焼酎で口の中を流し、トランプを引かせるため壱を見た。
「壱もう機嫌治ったー?俺あんなひたすら一人で飲む壱怖くて怖くて震えた。」
酔っ払い定まり辛い焦点を合わせるために、眉間にしわを良せながらトランプを引いた。
「機嫌悪くないし。」
焦点を合わせるのをやめ、とろんとした目でトランプをそうの方に向けた壱の口元はお酒によりにまにまとふやけている。
ババ抜きは進み、壱とそうが残った。
そうが、壱のトランプに手を置いた時電話がなった。
「あ。電話してくるねー。」
「あ?引いてからいけ。」
壱の制御も虚しく、そうは携帯を持ち店の外へと出ていった。
壱は、酔った頭で和夫をおもいだしていた。
高校時代たった4ヶ月、隣にいただけの男。
当時は壱と変わらないくらいの背丈だった和夫を思い出しグラスの縁に指を沿わした。
「めちゃくちゃ、身長伸びてた...」
「え?」
急な壱の言葉に桐生は、隠れて飲んでいたミネラルウォーターを急いで隠した。
「身長高いのっていいよなぁってふと思った。」
「んー。俺は男も女もちっこいのが好きかねぇ。」
「桐生ちっこいからな。」
「そいえば、壱ってどんなんがタイプなん?そいえば俺壱の元カレとかみたことなくなくない?」
「え?あー。俺は...」
頭の中に何故かオーナーが浮かんだ。
いやそれはない。と頭をかくと、焦げた茶髪が頭に浮かんだ気がした。
それを言葉にするのを忘れ、イメージだけで伝えた
「あー、こんな感じ。」
はず。だった。
「え。壱自分のことタイプやったん?」
イメージの中でぼんやりと言ったつもりだった壱は、驚きでガバッと上半身を起こしたが酔いでその返事の主に雪崩れた。
「おぉう。大丈夫かいな。」
ふんわりと包まれた温かい腕に、ベロベロに酔っ払っていた壱はそのまま体を預けたまま放心していた。
「かず、お?」
「せやで。壱どんだけ飲んでるん。」
「なんでここに?」
「あー、そうさんが教えてくれてん」
「そう?」
やっと、ゆっくりと和夫の胸からはなれた壱は、いつの間にか隣に戻っていたそうを睨む。
「いっちーこわーい!」
「なにしてくれてんの。」
「だって、別に壱は連絡先教えなくても僕が教えるのはいいでしょ?僕が呼んだんだから失礼な態度とらないの。」
カウンターに肘をつきなぎらグラスをカラカラとまわすそうを壱は睨みつけるが酔いのため直ぐに口角があがる。その顔を隠すように、左手で口元を覆う。
「よくねー。まぁ。なんだとりあえず来たんだし、テキーラのめ。」
自分なりに大人の対応というものをしてみたと思って得意げな顔をする壱に差し出されたショットグラスを和夫は受取り飲み干した。
「ほな、お隣座っていいってことでよき?」
「ん。」
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