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目が覚めると、頭が割れそうだった。
カラカラに乾いた喉を潤すためにキッチンに向かおうと起き上がった壱は見覚えのない景色に痛みを忘れた。
「どこここ。」
周りを見渡してもベットとサイドテーブル、小さめのクローゼットしかないビジネスホテル程度の広さの部屋に見覚えは無い。
とりあえず、扉に向かおうとベットから降りようとした壱の足に何かがぶつかり、足元を見ると裸のそうが転がっていた。
何度もそうを家に泊めた事のある壱はそうの寝相の悪さを知っていて、落ちたのだろうと思いながらも何故裸なのか気になりながらも、小さな体を抱きかかえベットにあげた。
まだふにゃふにゃと寝息を立て眠るそうを寝させたままに恐る恐る扉を少し開く。
そこから見えたのはガランとした広々としたリビングで、テレビと酒の瓶や缶が散らかったテーブル、ソファだけが見えた。
覗いていた壱の体が、急に反対側から開けられた反動でリビングの方へと倒れかけた。
「うわっと。すまんすまん。開けてるん気づかなかったわ。」
「か、和夫...」
壱を受け止めたのは濡れた髪でタオルを首からかけ白いスポーツブランドのTシャツにゆるいスエットを履いた和夫だった。
受け止められた体制からすぐに自立し、壱は再度頭が痛いことを思い出し、こめかみをおさえた。
「ここどこ。」
「自分んちやで。そうさんは?まだ寝とるん?」
「あぁ。」
開かれた扉の向こうには、リビングと、その奥には開かれた扉があり、ダイニングがあった。
周りを見渡すと、壱が開いた扉の他に3つの扉があった。
1つは玄関へとつながる扉であろう。
他に2つあるということは、親御さんがいるのかと思い、どうしてここにいるのか思い出せないが申し訳ない気持ちになった。
「あー。わりぃ。覚えてないけど。」
「別にええで。楽しかったし。」
「今何時。」
「昼の2時やな。」
「そっか。親御さん帰ってくる前にそうつれて帰るわ。」
「あっはは、自分一人やから気にせんとき。って昨日も言ったで。」
「そ、、、っか」
こんな広い部屋で一人で住んでて、いい大学に通っていて、とことん自分にないものを持っている奴だと、妬みの気持ちを押し殺し壱はベットで寝ているそうをチラリと見た。
まだ起きそうにないそうを起こしてもいいのだが、寝起きがすこぶる悪いそうを起こしたくない気持ちもあり早く帰りたい気持ちと喧嘩していた。
「とりあえず、なんか食うか?」
「あー、いや。とりあえず水ほしい」
「せやな。ソファ座っとき。」
「さんきゅ。」
和夫に言われたとおり大人しくソファに座ろうとすると、ソファには先客がいた。
グレーの毛をした小さな子猫だった。
丸くなっていたその子猫に口元が緩む。
「おじゃまします。」
壱が小さくいい横に座る。
子猫はちらりと壱を見て起き上がり背伸びをし、んにゃあっと壱の膝に頭を乗せ再度丸くなった。
「っ!!」
「ははっ。ほんま壱そいつ好きやなぁ。」
いつの間にか、スポーツ飲料を手にソファの横にいた和夫に猫に悶ていたことを見られた恥ずかしさでばっと、口元を隠す。
「わりぃかよ。」
「いんや。昨日も可愛かったで。なんか猫が2匹いる感じやった。」
「え?」
昨日の記憶が全くない壱からしたら初めて猫とあった気がしたが、こんなに普通に寄ってきてる訳だから昨日散々仲良くなったのであろう。
どんな醜態を和夫に晒してしまったのかと頭を抱えるがグルグルと喉を鳴らしながら膝に頭を預ける猫にどうでも良くなる。
「全く覚えてへんの?」
「あー。和夫が来たくらいから記憶ない。」
「べっろべろやったもんな。可愛かったで。」
「可愛いとか言われても嬉しくない。」
「すまんすまん。
そうさんがタワマン入ってみたい。言うから家で飲みなおそうなってん。
そうさん素っ裸でそこの窓の前で仁王立ちしてて面白かったで。」
ほら。と携帯を渡され、素っ裸で仁王立ちをし、酒を煽るそうが映されていた。
これで、素っ裸だったのか。とふっと笑い、酔ってどこまで話してしまったのだろうかと不安になる。
しかし、別に二度と会う気もないし、自分の仕事がバレていようが関係ないかと、スポーツ飲料を飲み干す。
「シャワー浴びる?」
「あー。いい。そう起こして帰るわ。」
とりあえず、酒の後片付けだけしようと猫を撫でた。お腹を出してゴロゴロと喉を鳴らす猫の腹を数秒撫で、ゴミ箱に缶をいれる。
「あぁいいで。あとでやるから。」
「いや...ってあ。分別とかあったか。」
「ふは。壱から分別って言葉聞くとは思わんかったわ。」
「うっせ。」
「無いから大丈夫やで。」
2人で散らばったゴミをまとめ終わり、寝室の扉に向かう。
起こしたくない気持ちを頑張って投げ払うために、ゴクリとつばを飲み込む。
「どないしたん?」
扉の前で少しばかり止まっていた壱に和夫は疑問を投げかける。
「そうが起きても暫くは構わないでやってて。」
意を決し、部屋へとはいりギシッとベットに座る。
そうの身体をユサユサと揺さぶる。
「そ、そーうさん。おきてー。」
「ん。あと少し」
「そろそろお暇しましょう」
普段はタメ口をきいている壱も緊張のため、敬語になっていた。
そうは少し目を開き、壱を睨む。
「あ、そうさ「死ね」えー。」
死ねとだけ呟きまた目を閉じたそうに諦めようか、しかし二人きりで和夫といるのも気まずい。そうを置いて帰るか、とも思ったが後で何を言われるかわからない。
もう一度意を決し、身体を揺さぶる。
「流石に帰らないと妹さん心配しますよー」
「...うっせぇクソガキ。」
「ですよねー。」
揺さぶっていた手を思い切り叩かれ、壱は手を離し諦める。
「よし。置いて帰るわ。」
「帰ったら殺す」
「はーい」
寝たと思い、小さな声で放った言葉をそうに拾われ、諦めて部屋を出た。
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