古今馬鹿集

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 馬鹿らしくなった我輩は、寝込んでいる馬鹿に礼を言って、馬鹿の家をあとにした。家の者にも礼を言ったが、何故か無視された。帰り道、村人の視線を感じて目を移すと、我輩の顔を見て、みな冷ややかにささやき合っている。 そういえば、いつも正午に起きては酒を飲むか昼寝をしてばかりだったので、明るい時間に村を歩くのは久しぶりだ。昨日も夕暮れで気が付かなかっただけで、同じ様に陰口を叩かれていたのだろう。お父様が荒れているのはこのせいか。  家に着くと玄関に見慣れぬ紙が貼ってあった。久しぶりに見るお父様の字だ。我輩の名前が書かれており、その下に立ち入り禁止と書かれている。お父様の字は久しぶりに見るが、やや、これは達筆な字だと感心。  我輩はどうやらついに勘当されたのだと理解したが、それよりも達筆なお父様の字が頭から離れず、おそらく半刻ほど見とれていた。二日酔いの頭はみるみる内に冴え渡り、残りの人生は全て書道に費やそうと決意した。我輩は天才だ。
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