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書道の道は何と奥深い道か。歩きながら我輩は思いを巡らせた。お父様の書いたあの字、我輩への憎悪が筆の先までひしひしと伝わってくる。墨をすっている時の怒りに満ち溢れたお父様の顔までもが、ありありと浮かんでくるようだ。
つまり、書の意味と感情は表裏一体。心理に近づき、我輩の心は書の達人へと浮き足立っていた。我輩はもう今までの我輩ではない。いつもならふらふらの足取りも軽く、先程までの冷たい視線も気にならない。
書の達人へと近づいている我輩なので、むやみに歩いている訳ではない。村の離れの山奥に住んでいると言われる書道家に弟子入りする為に歩いているのだ。書の道は険しいはずなので、山の斜面などどうと言う事はない。
慣れない山道を歩き続け、とうとうたどり着いたのは書の達人にふさわしくご立派な家であった。我輩、あまりのご立派な家に、ははあと土下座して手を天に仰いだ。これから始まる修行の日々が目に浮かぶようだ。
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