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師匠がもう一度大きな声で言った。鳩は食べた事があるかと。我輩が首を振って合図すると、師匠は大きく笑った。山々にその声は響き渡り、これから続いていく修行の日々が、忙しく充実していくような気がして、我輩の心は踊った。
その予想は的中した。初めて食べる鳩肉の美味しさに生きていて良かったと実感したように、修行の日々は厳しくも楽しい毎日だった。朝は日の出と共に狩りに出かけ、昼は師匠の仕草を真似て書を書き、夜はくたばるように寝た。
狩りは毎日仕止められる訳ではなく、坊主の日は師匠と悔しがりながら雑炊を食べた。師匠が書を書く時は一言も話さず、一枚、書を書く度にそれを破り、また何十枚何百枚と書き続けては破り続け、我輩もそれを真似た。
弓の引き方も、筆の使い方も、師匠は一言も教えてはくれなかった。日が沈み、虫が鳴き始め、部屋が紙くずでいっぱいになった頃、ようやく師匠は口を開いて、今日はもう寝ようと言う。そして、感謝と共に眠る。
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