古今馬鹿集

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「それは、いいのですが、勝った方が山を降りると言うのは、逆ではないでしょうか? 勝った方が損をします」 「まあ、最後まで話を聞きなさい。勝った方が山を降りると言う事は、負けた方があの家に残ると言う事じゃ」 「と言う事は、我輩が負ければ家を下さるのでしょうか?」 「その通りじゃ、お主にとって勝っても負けても損はないじゃろう。勝ったら久しぶりに両親に会ってたくましくなった姿を見せれば喜んでくれるじゃろうし、負けてもあの家が貰えるのじゃから」 それは、どちらに転んでもいい話だと言いたい所だが、いかんせん我輩、勘当されているので実家には帰れない。師匠に書の熱い思いを語ったのものの、それだけはさすがの我輩も末代までの恥として隠していたのだ。 つまり、我輩が勝ったら損をしますとは、言いたくても言えないのだ。この賭けは降りた方がいいのではと思ったが、馬鹿のはずの我輩、いい考えを思いついた。わざと負ければいいのではないかと。やはり我輩は天才だ。
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