第一章 穿つは。

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第一章 穿つは。

おはよう、と言えたら良かった。 何て今更、思っても過去は変えられやしないのに。 未だ、願って止まないのだ。 否、止められなかったのだ。それ故に。 「·········やぁ、望月(もちづき)さん」 清涼な声、ひとつ反芻(はんすう)し。反芻したも関わらず、解答(こたえ)る暇もなく。 か細く、頼りなさそうに消えた。 羞恥が凄絶過ぎて解答出来する事も、ままならぬ。 「······あ、その···お、お早···」 加えて言葉足らずである。 何て思われても仕方がないのだろう。 そうだ、仕方がないのだ。 流転する時の中。少なくとも悪い方へと思慮してしまう。 その考えが行けぬのだと分かったのは、針が数刻を指した頃。 「·········嗚呼、望月さん。」 言葉が宙を、駆けた。 ___おはよう。 それは確かに届いた瞬間でもあった。 「·········本当に······狡過ぎるよ」 「も······づ、さ···、······望月···さん」 届いてから針が再び数刻を指した頃、言葉が宙を駆ける。 「!あ、はい、済みませんっ!望月ですっ!」 駆けた事にすら気付かなかった私は。·········笑い者と化した。
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