ドント・アスク、ドント・テル

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 でもいざ付き合うと、さやかはレズビアンだということを突きつけられるばかりだった。  キスをされた時、安田の唇は肉厚でガサガサで、少しも柔らかくなんてなかった。  舌を入れられそうになったから、急いで顔を背けた。  キスってこんなに気持ち悪いものだったっけ、とさやかは困惑した。  安田とのキスが初めてのキスではなくてよかった、とさやかは感じた。きっとキスを嫌いになっていただろうから。  安田との遊びや会話は、そこそこ楽しかった。接触の無い友達としてなら、安田と仲良くなることができた。  安田はさやかと出かけることを『デート』と呼んだけれど、さやかは『デート』だとは思えなかった。  安田に一度もときめくことはなかった。  だから人通りの無い高校の図書館の本棚の陰で、安田に押し倒されそうになった時、さやかは突き飛ばしてしまった。  安田とはそのことをきっかけに自然消滅した。  安田が男友達に「岸土はブスな上にやらせてくれないんだぜ」と、笑いながら言っているのを聞いてしまった。  さやかはその言葉に、傷つくよりも寒気がした。  でも目的のために利用したのは自分も同じかと思い直して、自分も安田もお互いに恋なんてしていなかったことに泣きたくなった。  恋なんてしていなかったのに、交際をしようとしたり、体を繋げようとした。  並べられたお互いの真実があまりに虚しくて、さやかは大笑いをした。流せる涙なんてなかった。  空っぽの大笑いをして擦り切れた心を携えたまま、さやかは高校を卒業して、念願だった上京をした。
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