永遠のファーストブルー

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ようやくして手を伸ばし、小さな手に触れる。 「空野……」 今にも目を覚ましそうなのに、彼女が瞼を開けることはもうない。なにをしてもこの現実が覆らないと、どこか冷静な僕が囁く。 濁流のように押し寄せてくる後悔が、僕の心を覆い尽くしては責め立てた。 「お礼なんて……本当にいらなかったんだ……」 空野がまた笑ってくれるだけでよかった。どれだけわがままを言ってもいいから、いつかまた彼女と一緒に過ごしたかった。 ごめん、と声にならない言葉が落ちる。それでも、どうしても伝えたいことがあるから、熱を持った喉の奥から声を絞り出した。 「……っ、今夜は月が綺麗ですね」 まだ日が高く、今夜の月が綺麗かどうかなんてわからない。少なくとも、今の僕の目に美しく映ることはないだろう。 「……お礼を言うのは僕の方だったんだ」 空野未来は、僕にはあまりにも真っ直ぐすぎて手が届かない。そう思っていたのに、一緒に過ごした日々を思い返せば、彼女はごく普通の女の子だった。 「ありがとう……。僕を相棒に選んでくれて……」 すべてを悟っても唇に触れることはできなくて、滑らかな頬にそっとくちづけた。 少ししてふすまの外から声をかけられ、立ち上がった僕は空野の母親にお礼を言って、空野の家を後にした。 夏の日差しは、僕を容赦なく照りつける。痛いくらいの眩しさに、力ない笑みが漏れた。 「空野未来は最初から最後まで、なんて身勝手な女の子だったんだ……。僕は振り回されてばかりだったおかげで、涙も出ないよ」 涙なんて出るはずがない。けれど、どうしてか視界に映る憎らしいくらいの青空が歪んでいく。目にする景色のすべてがグチャグチャで、その輪郭はなにひとつはっきりしない。 明るく天真爛漫で、真っ直ぐだけれど自由奔放。コロコロと変わる表情は愛らしく、ときにはわがままを押し通す。 僕が恋をしたのは、とてもじゃないけれど僕の手に負えないような女の子だった。 初恋は叶わないと、最初に言い出したのは誰なのか。しかし、初恋相手が死んでしまったせいで叶わない――なんて予想もしなかった。 僕のちっぽけな初恋は永遠に報われることはなく、けれど記憶の中には強烈な思い出だけが残っている。 この先どれだけ美人で聡明な女性と出会ったとしても、僕はきっと空野未来に抱いた以上の恋心を持つことはない。 僕がどんなに素晴らしい青春時代を送ろうと、空野未来と過ごした日々以上の思い出はきっとできない。 まばゆいくらいにひたむきな彼女は、永遠に僕の青春そのものになったのだ――。
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