待っていたんだ、気づいてくれるまで

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待っていたんだ、気づいてくれるまで

 とある港町があった。その町は(ひな)びてはいたが、新鮮な海の幸を名物にしており、年中観光客が絶えない名所である。テレビでその港町の風景と海の幸を映し出され、旅情をかきたてられる者は少なくない。 その中の一人に青年があった。東京の会社に勤める平凡なサラリーマンで、週末の連休を利用しての一人旅の行き先にこの港町を選んだのである。 絶えず吹き続ける潮風の心地よさ、観光客向けスマイルとは分かっていても優しい人々、全国から人を呼び寄せる程に美味い海の幸。 青年は都会の喧騒と日々の仕事を忘れ、潮の香り芳しい青い極楽浄土を堪能するのであった。 観光を終えた青年は予約しておいた旅館に行くことにした。(ねぐら)をビジネスホテルにしようと考えたのだが、ビジネスホテルは会社の出張で数え切れない回数を(ねぐら)にしているため、仕事気分が頭の中に過り落ち着かない。そのような訳で今回の(ねぐら)を老舗旅館に決めたのだった。
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