プロローグ

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(さき)さんに何かしたでしょ?」  喫茶カノンの店主・山本(やまもと)悠太(ゆうた)は、不機嫌そうな顔でコーヒーを啜るカウンター席の瀧川(たきがわ)凛太郎(りんたろう)に尋ねた。 「はぁ? 俺が?」  思わぬ濡れ衣に、凛太郎はキョトンとして悠太を見つめる。 「なんで俺が……。そもそも、あいつとはこことエレベーターぐらいでしか顔を合わせない……」  そこまで言って、凛太郎はハタと気がついた。 「そういえば、あいつ、最近ここに来ていないんじゃないか?」  凛太郎の問いに、悠太は大きくうなずく。 「そうなんです。咲さん、最近、全然顔を出してくれなくて。しかも最後に来たとき、気になることを言っていたんです」 「気になること?」と凛太郎は片眉を上げた。 「はい。──『引っ越そうかな』って。それはもう深刻な表情で。だから、凛太郎さんの嫌がらせが続いているのかと思って、聞いてみたんですけど……」  悠太はジトリと凛太郎を睨んだ。 「だから、俺じゃないって」  凛太郎はブンブンと手を振り、否定する。それから辺りを見渡し、「あいつじゃねーの」と後ろを親指で差し示した。  悠太はその指のほうへと視線を移す。そこには華村(この)ビルのオーナーでフラワーアレンジメント講師の華村(はなむら)花音(かのん)の姿があった。  花音は、店内にテーブルフラワーを生けている最中なのだが、その手はピタリと止まり、愕然とした表情を浮かべていた。  ──絶対、何か心当たりがあるな。 「な、武雄(たけお)っ」と呼びかけると、花音はハッとして、視線をこちらへと移した。
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