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第1話
人には、表と裏の顔がある。良い面があれば、悪い面もある。人間は、表の顔ばかり見せるだろう。隠す事ができる裏の顔なんて実際はわからない。
いつからだろう。俺に変な能力が現れたのは……。
そうだ。あいつがいなくなったあの日からだ。俺に変な能力をくれた……あいつというのは。
「 ほら!ご飯だぜ!ジョン!! 」
カチャカチャと爪の音を立て裏からやってきたのは、犬のジョンだ。
「 何度も言うが、俺はジョンじゃねぇ、ジュンだ!」
不思議に思うかもしれないが、こいつは喋れる。ジョンは、ジョンになる前までは、俺の親友でもあり、相方だった。でも、ある事件に巻き込まれ、この世を去ってしまったんだ。
その時、俺は悔しくて悔しくて、今までにないくらいの涙が出た。ジュンの葬式の帰りに、俺は夜の公園のベンチに座っていた。
ベンチに座っていた俺の前に、1匹の子犬が現れたんだ。俺の足に擦り寄り、甘えてきた。
「 どうした。お前も、独りぼっち……なのか?」
その子犬は、俺の方をじっと見つめていた。
「 じゃ、もう行くからな。ごめん、食べ物何も持ってないんだ 」
俺はそれだけを言い残し、公園を出た。その時の俺は、寂しくて寂しくてたまらなかった。俺には家族がいない。俺の名前は、翔吾。親友の名前は、潤。
俺たちは、ずっと一緒だった。小さい頃から、ずっと。施設で育った俺たちは、兄弟のようだった。そして、俺たちはある夫婦に拾われ、そこで育てて貰えることになった。兄弟のようだった俺たちは、引き離される事無く一緒に連れて行ってもらえた。その夫婦は、小さな町の小さな動物病院をやっていた。
そして、その公園の帰り、行きつけの居酒屋へと足を運んだ。
「 いらっしゃい!!おい、翔吾!大変だったな…… 」
「 あぁ。今日は、がっつり呑ませてもらう 」
そう気さくに話しかけてきたのは、俺たちの先輩のサラさん。話し方は男性的だが、性別は女性だ。
サラさんも俺たちと同じ施設出身者だ。店を経営するまでにのし上がった、努力家だ。俺たちの姉貴的な存在だ。
時間的には1時間くらい経った頃、俺はもうベロベロに酔っていた。
「 大丈夫かよ!!飲みすぎだ。まったく!」
何も喋れないくらい、酔ってしまっていた。気づいた時には、俺は夢を見ていたんだ。
「 おい、翔吾!こっち来いよー! 」
「 待ってよー! 」
その夢は、小さい頃の夢だった。気弱だった俺は、ずっと潤に守られていた気がする。いつも一緒で、いつも潤の影に隠れていた。そして、なぜかずっと2人で砂のお城を作っていた。そんな小さい頃の夢を見てしまっていた。
もう一度、潤に会いたい。もし、会えたなら、俺はどんな言葉をかけてあげられるかな……。
「 翔吾!!起きろっ!!起きろよ!」
気づいたら朝になり、俺は自分のベットで寝ていた。
「 ん??今の声……夢か 」
ベットの隣を見てみると、子犬がこっちを見ている。
「 えっ!?嘘!公園から連れてきてしまったか 」
昨夜、飲みすぎてしまったせいか記憶が全くない。頭痛のせいか、目も少しおかしい。
「 翔吾!!飲みすぎだぞ 」
潤の声がする。ついに俺は、頭がおかしくなってしまったのか。周りには、子犬しかいないのに、潤の声がするなんて。
「 お前、頭大丈夫か??早く俺を見ろ!! 」
なんで、子犬から潤の声が。俺は、子犬を抱きあげ膝の上に乗せてみた。
「 まさかな。こんな可愛い子犬から声がするはずないよなぁ 」
俺は、子犬の頭を撫でそう言った。
「 翔吾!俺だよ!潤だよ!ここにいるんだよ!信じてくれ!俺は、ここだ!! 」
やっぱり、子犬から潤の声がする。間違いない。
「 潤!?なんでこうなった。お前は、もう 」
「 そう、俺は死んだんだ。だけど葬式が終わったあと目を開けたら、全ての物が大きく見えて……。こうなっていたんだ 」
「 ちょっと信じがたいが、でもまた話ができるのは、嬉しい。まさか、俺も死んでないよな?? 」
「 お前は、生きてるし、人間のままだから安心しろ!! 」
なかなか信じがたい現実が目の前で起こっているが、俺は嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。
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