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「今どこ?よかったら会いたい。」
既読になったままのメッセージが画面に残る。
今の私は何も見えていない。何も考えていない。
ただ彼からの返事を待っている。
私の目は彼のメッセージを受け取るために。私の耳はメッセージの通知音を受け取るために。私の腕は彼にメッセージを伝えるためだけにある。
いやいや、そんなことはない。私の手足はそんなもののためにあるんじゃないと私は少し現実というやつに目を向けてみた。
そろそろ晩御飯の買い物に行かなきゃとか。
溜まっている洗い物に手を付けなきゃとか。
やるべきことは頭の中で浮かんでくるのに私はスマートフォンを手放すことができなかった。どうにも彼からの返事が来なさそうなので代わりに恋愛研究サイトのページを開いてみる。その中に「メッセージが来ない男性の深層心理とは?」という記事を見かけ中身を見てみた。
どうしても私のこのざわめきを抑えるためのなにかが欲しくてほしくてたまらない。そうして開いた記事の内容は私を満足させるものではなかった。
「男の人が仕事に打ち込んでいる時やとにかく集中して何かをしている時などは既読をしない事が多く、または気づかないもしくはスルーしちゃいます。」
そんなことはどうでもよかった。ただ今は彼の返事が全てだった。
どうして返事をくれないのだろう。いきなり会いたいだなんて重かったかな。
今日は会えないんだ。きっと都合が悪いんだ。だったらどうして連絡をくれないのかな。私悪いことしたかな。なんて思考がぐるぐると廻るのを抑えられない。
「……馬鹿みたい。」
そんな自分の暴走を抑えるために言い聞かせるようにそう呟いた。
そうしてふとした瞬間にじっくりと穴が開くほど画面を見つめているだけのなんの生産性のない時間に気づく。
ふと冷静になった時の自分を客観視するときはなんともいえない。
延々と回り続ける思考の渦に飲み込まれながら、もがきながらはしゃいでいる自分に対してひどく恥ずかしい気持ちになる。
片思いってきっと不健全なものなんじゃないかと思う。
どうにもならないことを延々と頭の中で繰り返し続ける。
きっと娯楽にすぎない。本質的には遊園地とさして変わらない。
いつか飽きるものなのだ。頭の中で退屈を紛らわすなんてなんて私は寂しい女なんだろう。
もう、やめよう。恋するなんて。私は私の時間をゆっくり過ごそう。そう胸に決意した瞬間にスマートフォンの通知音が鳴る。
そうやって私はいつもこのメリーゴーランドを降りるタイミングを逃すのだ。
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