十九年後

私は、いろんな事情が重なって、勤めていた会社を退職した。忙しく働いていたのが、急に何もしなくなり、まるでぽっかり穴が空いた気分になった。

終日、ぼんやり過ごした。

会社に行かなくなった私を見て、母は心配そうな顔をした。どうしたの？　仕事は辞めちゃったの？　といった質問をしたいだろうに、母は黙ったまま、ふだんと変わらない態度をとっていた。

私は、母にきちんと話をしなければと思う。けれど面倒なので後回しにしていた。

私は、いままでとは違う仕事に就きたいと考えていた。なんといっても興信所は世間体が悪い。どこに出て行っても胸を張って言える職業に就きたかった。

しかし、具体的にどんな仕事にするか決めていなかった。