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本人に、修学旅行に来るなと頼みたいくらいの気持ちだった。まあ、あんなクソ女に頼みごとをするなんてプライドが許さないし、下手なメールでも送って記録を残されようもんならこっちがいじめ扱いされて悪者にされるのが目に見えているのでできないのだけれど。
とにかく、自分達の心の安全を守る為、自己防衛の手段はなんでも試そうという気になっていたのだ。それが、到底信憑性のないおまじないの類であったとしても。
「相手に災いを齎したい日の前日にやんなくちゃいけないんだって」
修学旅行の前夜。夜八時の小学校。ボロい公立校というのもあって、警備の人が見回りをしているなんてこともない。職員室には明かりがついているが、校庭の体育倉庫の方を見ている先生なんてまずいないだろう。丁度よく、木陰になっているから尚更である。
「体育倉庫の裏手で陣を書いて中心に、相手の名前を書いた紙を埋める。で、そいつにかけたい呪いを呟けば終了なんだってさ。翌日、呪いをかけた相手にそれがふりかかるんだってー」
笑里がにやにやと笑いながら言う。やや風の強い日だった。あっちにこっちになびく長い髪を抑えるために、彼女はずっと左手で米神をおさえるような仕草をしている。
「あー。髪結んで来ればよかったー。これ絶対ぐっちゃぐちゃになるやつう」
「ポニテとツインテもうざいからあんま意味ないかもー」
あはは、と笑っているのは小柄なツインテール少女のアキだ。彼女の二つ結びも、風でびったんびったんと撥ねるように動き回っている。ちなみに、私はボブカットなのでその辺はあまり関係がない。前髪が撥ねるだけでも十分うざったいが、他の二人よりはだいぶマシだ。
既に三人とも、“渥美絵真”の名前を書いた紙人形を持参してきている。あとは体育倉庫の裏に簡単な魔方陣ぽいものを書いて、その真ん中に紙人形を埋めればいい。体育倉庫の裏は昔花壇だった名残とかで、土が柔らかめのため多分埋めるのには苦労しないだろう。
問題があるとしたら、それは。
「うっわ」
スコップで土を軽く掘り返したところで、思わず私は声を上げていた。
「紙の残骸っぽいのいっぱい出てくんだけど!みんなどんだけ人呪いたいのよ」
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