さきに、さきに。

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さきに、さきに。

 うちのクラスの担任である、北島(きたじま)先生のことは嫌いじゃない。イケメンだし、六年生で彼のクラスが当たったと知った時は正直喜んだものである。他の先生達より圧倒的に若いし優しいし、授業も面白いことを知っていたからだ。  けれどその時ばかりは、このクソ野郎と口汚く罵りたい気持ちでいっぱいになったのである。  理由は単純明快。恐ろしく、空気が読めないことをしてくれたからだ。 「マジでうっぜえんだけど」  学校から帰ってきてからというもの、私はずっと友達の笑里(えみり)とスマホで喋り倒していた。当然、今日あった出来事に関する愚痴である。 「修学旅行、すっごく楽しみにしてたのにさ。なんでウチの班に、あの根暗女入れないといけないわけ?仲良しグループだけで回らせろっつの」 『ほんとだよね亜矢(あや)ちゃん。先生空気読めてない』 「ねー。アキちゃんと笑里と私の三人だけで回るから楽しいのにさ、あのバカ入れるってだけでぜーんぶ台無しじゃんね」  もうすぐ六年生の恒例行事、修学旅行がある。初めての京都旅行、私達はとても楽しみにしていたのだ。清水寺でお土産物を買いまくろうとか、美味しいもの食べて騒ごうとか。班メンバーだけの自由行動の時間もあり、集合時間さえ守れば一定の範囲で好きなように動いていいと言われていたのだ。まあ、小学生の“自由行動”なので、事前に行く場所は申請が必要だし、距離もかなり限られてはいるけども。  問題は、その班分けの段階にあったのである。私・亜矢と笑里、アキの三人は自他ともに認める仲良しグループであり、いつも一緒に行動している。修学旅行も、絶対にこの三人で楽しもうねと約束していたし、先生が仲良し同士で組み合わせを決めていいと言った時はソッコーで三人くっついたものだ。そこはいい。  だが、そういう“班分け”とか“組み分け”になると、必ずクラスで一人や二人余る奴が出るのだ。友達がいなくて、コミュニケーション能力が低くくて、根暗でいっつも教室の隅で小さくなっているようなヤツ。うちのクラスではいじめなんてものはないと思っているが、まあ、そういう話が通じるかも怪しいヤツを同じ班に入れたい人間はそうそういないのである。というか、せっかく仲良し同士で盛り上がろうとしているのに、なんでその中に好きでもなんでもない異物をねじこまれないといけないのか。  確かに教師としては、余ってしまった生徒をそのまま放置しておくわけにもいかないのだろう。どこかの班に頼んで、その生徒を入れてもらうようにお願いするしかないというのはわかる。でもって、忌々しいことにその該当者が女子なら女子のグループに入れなければ、というのも一応は理解しているのだ。でも。
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